若狭塗独自の工程「研ぎ出し」の作業に集中する加福宗徳さん=福井県小浜市一番町

 表面の漆を砥石で丹念に研ぐ。埋め込んだ貝殻が輝き、顔料の赤や緑が浮かび上がる。若狭塗が誇る独自の技法「研ぎ出し」。条件によってさまざまな海底模様を生み出すこの工程が、若狭塗職人の加福宗徳さん(43)にとって「一番手間がかかって、一番楽しい」。伝統を守ること自体にこだわりはない。だが、ものづくりを追求する身として、若狭の海を工芸に込めようとした先人の発想力は、純粋に尊敬せずにはいられない。

 高校のときは家業の若狭塗を継ごうなんて選択肢になかった。「伝統工芸」に指定されている時点で、もう消えかけの絶滅危惧種みたいに思っていたし。洋服店勤めをやめて22歳で職人になったのは、昔から好きだったものづくりに興味がわいて、人とは違うことをしたいと思ったから。

 歴史を守ろうという意識はもともとなかったし、今もない。けれど最近は、伝統工芸を見直そうという流れが来ている。福井県外の若い人からも「独特の模様が気に入った」と箸や器の注文が増えた。これから外国人の需要が高まると言われるけど、世の中の流れがどうなるのかは、僕には分からない。注文に応えた物を作って喜んでもらえるように、目の前の仕事に向かっていきたい。

 「研ぎ出し」は奥が深い。色漆を塗り重ねる順番、乾くまでの時間。微妙な条件の違いで表情が変わる。経験を積んでも、研いでどんな模様が出るのか完全には予想できない。何も考えずに余った色漆を塗っただけなのに、きれいに仕上がることもある。これが若狭塗の面白いところ。

 小浜の好きなところは、のんびりした暮らし。友だち同士で釣りに行ったりして、海には子どものころから親しんできた。若狭塗の海底模様は、その小浜の海があったから生まれた。昔の人は、どうやってこの模様の出し方をひらめいたのか。最初に気付いた人はすごい。それに匹敵するような、自分にしかできない技が編み出せたら、若狭塗がもっと面白くなりそう。

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