白ごまを振りかけ、料理を仕上げる山田トシさん=福井県鯖江市

 書きためた料理のレシピは1000枚を超える。緑に囲まれた福井県鯖江市河和田地区の古民家に暮らす山田トシさん(92)は、現役の料理の先生。50歳ごろから丹念に調べてきた地元の料理を次世代に伝えている。「昔はスーパーなんてなかったでの。郷土料理は身の回りで採れたもんで作るもの。季節というのは、それだけでごちそうや」。春になると山菜を摘み、夏は畑の夏野菜を収穫する。四季の変化を体いっぱいに取り入れて暮らしている。

 みんな、お母さんのおなかからポコンと簡単に生まれたんじゃないんやよ。ご先祖さまがいるから命がある。子にも孫にも先祖を敬う気持ちを伝えていきたくて、報恩講(浄土真宗の法要)に欠かせない料理のレシピを記録しようと思ったの。それで各町内のお年寄りに何を作っているかを聞いて回った。

 ここらの料理は、報恩講やお祭りといった季節の行事とともにある。魚や肉を食べるなんて年に数回。油揚げや豆腐がごちそう。材料のほとんどは山菜や畑の野菜やよ。

 春になると、まずはヨモギ摘み。その後にぽこっ、ぽこっとワラビやゼンマイが出てくる。ゼンマイは乾燥させて、あえ物やの。山にはフキノトウ、タケノコ、タラの芽、なーんでもある。夏は畑にトマトやキュウリ。梅干しも作らなあかん。秋はギンナン、カキ、クリ。山のボンボ(ムカゴ)は甘くどく炊いて、まぜご飯にするとおいしいざ。

 河和田で長く暮らしていると、いつ何が採れるかはすぐ分かる。朝起きたら「そろそろあれが旬のはず」と自然に感じる。都会暮らしはなんもうらやましくない。スーパーで毎日、同じようなお総菜を選ぶような生活はしたくないでの。

 料理教室の生徒さんにはいつも言ってるんや。「たった一つだけでいい、子どもたちが『あー、お母さんのあの料理が食べたいなあ』と思う味を作りなさい」ってね。そしたら、子どもたちは大きくなって遠くに行っても、絶対に古里を忘れないよ。

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