雪が積もる勝山市の本町通り。雪を保存し真夏に“親雪空間”をつくることを空想してみた=20日

「左義長まつり通年型 過去に構想あった」勝山左義長ばやし保存会の木村照雄会長

「ありそうでなかった発想 臨時のゲレンデいい」 エコミュージアム協議会の竹原幸雄会長(右)と西山和彦副会長

「夏にやるからこそ 雪室の意味がある」 市雪氷熱エネルギー利用促進協議会の事務局を務める櫻井光雄さん

 ◎勝山市・提案編

 真夏の勝山市の中心部、本町通り。季節外れのかまくらが、昔ながらの各商店に並んでいる。土、日曜日は雪を使った遊び場「スノーパーク」がお目見えし、坂が多い地形を生かして設けた「そり遊び」コーナーは子どもたちに大人気。夜になると、周囲はいっそう趣が出る。店内の照明は消され、かまくらの明かりで幻想的光景が広がっている。

 雪を利用した自然の冷蔵庫「雪室(ゆきむろ)」は商店街共有の施設。蔵出しされた地酒やソバは、深みのある味わいが楽しめる。かまくらの中では店主が、こうした“雪室ブランド品”の数々を観光客に提供している。どの店も、冬に貯蔵した雪の冷気で冷やす「雪冷房」でひんやり。

 春を告げる奇祭「勝山左義長まつり」は夏にも通りで鑑賞できるようになった。通りに面した常設櫓(やぐら)で長襦袢(じゅばん)を身に着けた市民が太鼓、三味線、笛を鳴らしおはやしが鳴り響く。本町通りまで延伸したえちぜん鉄道「かっちゃま」駅に観光客が次々と降り立ち、雪室ブランド品をじっくり味わいながら、伝統の祭りを堪能している。

 豪雪地帯の勝山市にとって邪魔者でしかなかった雪を逆手にとったブランド化戦略は、すっかり全国区になった。
(宮本宰直)

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 県内9市の担当記者がまちの人たちと一緒にアイデアを膨らませ、空想のまちづくり事業として提案する連載。最終回の第9回は勝山市編をお届けします。

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 ◎勝山市・根拠編

 邪魔者の雪を逆手に地域振興 坂道利用遊び心満載

 勝山市では雪の利活用策が模索されてきた。ここ数年、市民団体が雪室(ゆきむろ)を使った農作物の貯蔵実験を進めており、将来的に貯蔵品のブランド化を目指している。それなら、雪をもっと観光に生かす方法はないか。意表を突いて真夏に、しかもまちのど真ん中に、親水空間ならぬ“親雪空間”をつくる。邪魔者の雪を逆手にとった地域振興を考えてみた。

 同市中心部にある本町通りは、江戸時代の城下町として整備された道。冬には年の市や左義長まつりなどでにぎわうメインストリートでもある。しかし時代とともに店舗数が減少し、空き地になったところも出てきている。構想では、年の市、左義長まつりの舞台となるこの場所で、まちおこしを仕掛けられないかが真っ先に頭に浮かんだ。

 長年、地域の宝を掘り起こし、まちづくりにつなげてきたエコミュージアム協議会の竹原幸雄会長(70)と西山和彦副会長(56)は「雪を生かそうという発想はこれまでありそうでなかった。面白い」と共感してくれた。勝山ではかつて、一夜で積雪が1メートルになったこともあり、雪は「市民生活にとって大変なもの」という意識しかない。その雪を利用するのが新鮮に映ったようだ。「冬の間に雪を雪室に押し込み、夏に利用するのはいい」と話す。

 まちなかの坂道を生かして臨時のゲレンデにする案は、市が仕掛けている地形や地質など地球活動の遺産を学べる「ジオパーク」とも関係がある。「至る所にある坂は九頭竜川がつくった河岸段丘そのもの。坂が多いのは勝山特有の景観で、その坂を生かし夏に雪のゲレンデができるのはいい」と西山さん。特に本町通りの北に位置する観光施設「はたや記念館ゆめおーれ勝山」への動線として、その間の下り坂を利用した雪遊びは「うまく機能するはず」とする。

 夏に雪室から蔵出しするアイデアを出したのは、市雪氷熱エネルギー利用促進協議会の事務局を務める櫻井光雄さん(34)。当初は季節を冬にと考えていたが「夏にやるからこそ雪室の意味がある」と指摘され、夏に変更した。秋に収穫するコメやソバは翌年の夏ごろには味が落ちる。ところが雪室に貯蔵すると、湿気が適度にあり温度が低いため、翌年夏も鮮度を保てているメリットがあるという。雪室貯蔵との話題に加え「夏に“新鮮”な秋の味覚を売れると効果的」と話してくれた。

 2月に行う左義長を通年型にするアイデアは、「春を呼ぶ祭り」と地元に根付いているだけに反発も予想された。しかし、勝山左義長ばやし保存会の木村照雄会長(66)は「同じような構想が過去にあった」と話す。全国で伝統的な祭りを行っている地域の中には、1年を通して祭りを見られる所もあり「櫓(やぐら)を常設できないか市にお願いしたこともあった」という。勝山は夏に主だった祭りがないため、市民や観光客が通年で左義長を楽しめる場所ができるのはよさそうだ。(宮本宰直)

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 ◎勝山市・調査編

 雪を生かしたまちづくりは数年前から勝山市で少しずつ構想が膨らんでいる。特に「雪氷熱エネルギー利活用」として雪室(ゆきむろ)に地元産の野菜やソバを保存する実証実験は3年前から続き、利点も見えてきた。

 市内団体などが進めている実験では郊外の使っていない冷凍倉庫を借り受けている。今回、提案した雪室は新規の大型のもの。市環境政策課に実現性をぶつけてみると「設備が大きければ大きいほど雪が解けにくく理想的。ただ断熱がしっかりしていないと解けてしまうし、整備費は4千万円は必要」とはじき出す。

 もっと小規模な雪室ではどうなのか。「冬の間に重機を使って雪を運び込む際、入り口が狭いので搬入しにくくなるかもしれない」と懐疑的だった。雪室の運営主体、建設費用の捻出が課題となりそう。

 雪室ブランドの商品について雪利用の研究を行う雪だるま財団(新潟県)の伊藤親臣チーフスノーマン(45)は「他にはない付加価値の高い商品を扱えるかが鍵。採算ベースに乗せようと思うと意外に難しい」と指摘した。

 坂道を使ったスノーパークは実現性はかなり高い。昨夏、市雪氷熱エネルギー利用促進協議会が市の長尾山総合公園で「真夏のゲレンデ」を開いている。除雪した雪に断熱の木材チップ、遮光シートをかぶせ保存。夏まで7割の量の雪が残りゲレンデに活用できた。今回の活用案でも、市内の広場などに保存しておけば、イベント時のみ運び込んで坂に敷き詰めるだけで十分可能と見込む。

 市民から要望が強い、えちぜん鉄道の市街地延伸のアイデアはどうだろうか。実は過去何度も市会などでも議論されている。ではなぜ具体化できないのか。

 課題はやはり費用面だ。勝山駅から市街地方面へ向かう九頭竜川勝山橋に電車を走らせるとなると、橋の強度アップは必須。坂道の勾配対策なども含め「県が試算した結果によると40〜50億円かかる」(市環境政策課)。勝山駅から1キロ程度の延伸だが現実的には厳しそう。

 一方、構想で取り上げた通年での「勝山左義長まつり」はすでに事業化へ動きだしている。

 勝山商工会議所などが昨年設立した観光まちづくり会社が、まちなかにある旧料亭「花月楼」を改修中で、その計画に屋外の櫓(やぐら)舞台設置が盛り込まれている。今春にはオープン予定で、観光客に料理とともに左義長まつりを楽しんでもらうのは、まちなか誘客の魅力的な策に映る。

 ただ勝山左義長ばやし保存会の木村照雄会長(66)は、まつり当日以外のおはやしに「まちなかだけに、太鼓などの音が気になるところ。近隣から苦情などが出れば継続が厳しくなる可能性もある」と指摘する。周辺住民の合意形成は欠かせず、「常設」としながらも開催する曜日や時間帯を限定するなど工夫が求められそうだ。

 ■記者はこう見る 実現可能性35%

 「克雪」という言葉があるほど豪雪地帯の勝山では雪はあくまで排除するものとの意識が強い。ところが全国に目を向けると、雪の通信販売やエネルギー活用などに取り組む事例がある。当たり前の存在だからこそ利用価値には気付きにくいが、雪だって資源ではないかとの思いが取材の出発点だった。

 まちなかに多い坂道も雪と同様ではないだろうか。当たり前の光景が市外の人間には面白く映る。マイナスにみえる要素を逆にまちの個性として利活用する—。どのまちにもまちづくりに役立つ潜在的な資源があるのではと思わせる取材だった。

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【意見募集】

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