【論説】坂本堤弁護士一家殺害事件や地下鉄、松本両サリン事件など一連のオウム真理教事件で死刑が確定していた13人全員の刑が執行された。社会を震撼(しんかん)させた未曽有の事件は事実上、刑事手続きが終わった。だが「これでオウム事件は終わった」としてはならない。

 事件を知らない若い世代には、オウムに引き寄せられた死刑囚や信者らと同じように、疎外感や閉塞(へいそく)感を抱えている人が少なくない。凶行に走らせる土壌はいまなお払しょくされたとは言い難い。事件を繰り返し検証し、教訓を伝え続けなければならない。

 一連の事件の犠牲者は29人、負傷者は6千人以上に上る。入信前に犯罪とは無縁だった若者たちがなぜ、こんな狂気にとりつかれたのか。首謀者の松本智津夫元死刑囚は無論、幹部であり実行役だった12人の刑執行により、闇に葬られた形となった。

 松本元死刑囚は宗教上の師を意味する「グル」と呼ばれ、その指示は絶対的なものだった。理不尽な命令にも従うことが修行とされた。裁判で弁護側はマインドコントロールで抵抗できなかったと主張したが、マインドコントロールにより責任能力が限定されたとは認められなかった。

 むしろサリン散布を巡り林(現姓小池)泰男死刑囚=26日刑執行=が「断ればリンチで殺される」などと供述したように、教団の軍隊化に起因するとの指摘もある。とはいえ、元幹部らの証言からは事件の全体像を理解することはできない。社会の現実に違和感を持ち入信した若者たちの思いがねじ曲げられていった過程は未解明な部分が多い。

 社会への鬱屈(うっくつ)とした思いから若者が反社会的な行動に走る構図は、東京・秋葉原や神奈川・相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件とも共通しているのではないか。最近では会員制交流サイト(SNS)が居場所や不満のはけ口になり、サイトを通じて過激な思想に感化され、暴走する恐れもある。

 国はそうした若者の救済、受け皿作りを主導する必要がある。だが、今回の刑執行では「平成の事件は平成のうちに区切りを付ける」の大方針のもと、ふたをしてしまおうとの姿勢が如実に伝わる。

 上川陽子法相は「命を奪われた被害者やご遺族、一命を取り留めた方々の恐怖、苦しみ、悲しみは想像を絶する」と述べた。世論や遺族・被害者の思いを前面に、死刑制度の存続を改めて示したといえる。わずか20日間で13人の刑執行は異例であり、国際的に死刑廃止の流れが進む中、内外で批判が高まっている。

 問題なのは、判決から執行に至るまでの過程がほとんど明らかにされていないことだ。死刑の廃止か、容認か、どちらかの立場を取るにしても、国民が十分な情報に基づいて議論を深められるよう、環境を整える必要がある。さらに、オウム事件の公判記録を早急に公文書館に移管するなど、研究者らの活用に資するよう配慮すべきだ。

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