【越山若水】「堪忍のなる堪忍は誰もする ならぬ堪忍するが堪忍」。道徳的な教えを分かりやすく詠んだ和歌を「道歌」という。古くから親しまれ座右の銘にする人も多い▼念のために冒頭の歌を説明すれば、艱難(かんなん)辛苦を耐え忍ぶまでは誰にもできる。しかし、忍び忍んでなお忍ぶ人はめったにいない。ぜひ肝に銘じて教訓としたい▼これから紹介する道歌にも聞き覚えがあるかもしれない。「急がずばぬれざらましを旅人の あとより晴るる野路の村雨」。室町後期の武将、太田道灌の作である▼急いだばかりにずぶ濡れになった旅人。通り過ぎたそばからにわか雨がやんで晴れていく。何とも皮肉な光景だ。「急いては事をし損じる」と同義だが、暗に人生には心のゆとりも肝要と説いている▼今月30日まで夏の交通安全県民運動が行われている。福井国体も間近に迫り「交通マナー日本一 おもいやり福井」などのスローガンを掲げ、安全意識の向上を訴えている▼県内の昨年の事故死者は46人。一見少なく見えるが、10万人当たりだと5・88人で全国ワースト1。一般道の後部座席シートベルト着用率も最下位だ▼道灌には鷹(たか)狩りで雨に降られ、少女にミノを借りる山吹伝説がある。「急がずば…」の道歌は「…山吹の実の一つだになきぞ悲しき」の名歌を受けて詠まれたともいう。急がぬこと、それは命を守る心構えである。

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