荒井結子さん(中)に演奏され、仲間とともにステージに立つ鶴見孝子さんのチェロ=24日、福井市の福井県立音楽堂

 がん闘病の末、今年10月に45歳で亡くなった女性が愛用していたチェロが24日、福井市の福井県立音楽堂で開かれたチェロアンサンブルのコンサートで仲間の手によって奏でられた。曲ごとに仲間が交代し、女性のチェロを抱きかかえるように演奏。伸びやかな音色を聴いた女性の母親は「娘がステージにいるような気持ちになった」と涙を浮かべた。

 女性は福井県坂井市出身のデザイナー鶴見孝子さん。仕事先で知り合った哲也さんとの結婚を機に2002年にシンガポールに移り住み、翌年に趣味でチェロを始めた。すぐに現地の市民オーケストラに参加し、持ち前の明るさで音楽仲間を増やしながらチェロにのめり込んでいったという。

 結腸がんが見つかったのは07年6月。緊急手術を行ったが、同10月には肺への転移が分かり、ステージ4と診断された。それでもがんと向き合いながらチェロを続けた孝子さん。治療のために里帰りしていた15年12月、知人を介して福井市在住で国内外で活躍するチェリスト荒井結子さんに出会った。

 意気投合した孝子さんは、荒井さんが代表を務める「福井チェロアンサンブル」に加入。今年5月にがんを告白されたという荒井さんは「孝子さんは練習でも常に明るく振る舞い、メンバーの誰もがんと闘っていたとは知らなかったはず」と振り返る。

 容体が急に悪化したのは今年10月に入ってから。並行して所属していた福井交響楽団の演奏会前日の15日に入院し、20日に亡くなった。母親の西林鶴美さんは「部屋の予定表には12月までの練習日がずっと書き込まれ、福井交響楽団とチェロアンサンブルの公演には必ず出るつもりだったんだろう」と娘の気持ちを思いやる。荒井さんは葬儀でチェロを演奏して見送ると、その場で12月の定期演奏会で孝子さんのチェロを使わせてほしいと遺族に申し出た。

 24日の福井チェロアンサンブルの定期演奏会では、荒井さんを含めて4人が孝子さんのチェロを演奏。亡くなってから2カ月のブランクで音が出にくかったチェロは、演奏会前日の練習から急にいい音で鳴るようになった。荒井さんは「本当にチェロが大好きだった孝子さんらしい。不思議なものを感じた」と話す。演奏会のチラシは、孝子さんのデザインだった。

 アンコール演奏前、荒井さんは「今日は鶴見さんが一緒にステージにいてくれた」とあいさつ。客席では母親の鶴美さんや夫の哲也さんらも見守った。哲也さんは「がん発覚から9年4カ月も頑張れたのは音楽の力。仲間に演奏してもらえて本人も喜んでいるはず」。鶴美さんは「仲間の皆さんの気持ちがうれしい。チェロの音色が胸に染みるようでした」と語った。

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