堂下雅晴さんの自宅兼農家民宿「いちろべ」=福井市

 農家レストランや農家民宿の新規開業が、福井県内の山あいのいわゆる中山間地域で増えている。開業者の中にはI・J・Uターンで県外から移り住んできた人もいる。国が進める農地の集積・集約など生産の効率化に適さない条件不利地であっても「地域資源」を見つめ直すことで、ビジネスチャンスを切り開こうとしている。

 福井市の中心部から西へ約20キロの山間部に広がる殿下地区。人口は450人を切り、65歳以上が半数以上を占める。75歳以上の後期高齢化率は33%に達する。

 そんな古里に堂下雅晴さん(58)が、横浜市からUターンしたのは13年前。亡き父母が興した大豆製粉業を継ぐためだった。直面したのは幼小中併設校の園児・児童数が二十数人という著しい少子高齢化の現実。「このままでは地域コミュニティーが失われる」との危機感を抱いた。

 転機は2011年3月の東日本大震災だった。被災で傷ついた心を「殿下の豊かな自然で癒やしてもらおう」と、福島の子どもたちの受け入れを決めた。

 以降、毎夏に被災者を受け入れながら、その経験を基に見いだしたのが農家民宿による地域再生だ。堂下さんら10軒が昨年、一気に農家民宿として県に登録。かねて登録していた1軒と合わせ、計11軒となった。

 「殿下の里づくり組合」の3代目組合長を務め、登録の旗振り役となった堂下さんが思い描くのは、農家民宿が「地域産業」として根付くこと。民宿とはいえ、普通の民家のため、1日に泊められるのは5人程度。堂下さん宅の宿泊者数は昨年4人、今年十数人と、ビジネスとしては「発展途上」の段階だ。

 それでも「法事などが行えるよう8畳4間を田の字型に配した間取りや、大きな仏壇が都会の人には新鮮に映る。外から来た人から自然環境を含め、今まで気づかなかった地域の“財産”を教わることは多い」と堂下さんは話す。

 みそ汁に生の大豆粉を加えた「呉汁」など地域の伝承料理を受け継いでいきたいという女性たちの思いを生かし、農家民宿より一足早く手掛けた農家レストラン「かじかの里山殿下」は今年で開業4年目。昨年初めて収支が黒字になり、今年はさらに売り上げを伸ばしている。

 冬季休業する1〜2月には店が入る地域の福祉施設を改修し、福井大の学生が考案したオープンカフェを新設する予定だ。

 着実に一歩ずつ前に進んでいる殿下地区の中山間ビジネス。その理由を堂下さんは「『課題解決』と肩肘張ることなく、みんながやりたいことを楽しくやっている成果」だという。この先、「少しずつもうけが増え、地域の活力がより高まっていく」ことを地域全体が期待している。

 ■健康ランチ評判 家族で移住

 9世帯が暮らす福井県小浜市忠野に昨年5月、梶本良司さん(46)、由美子さん(46)夫妻が農家レストラン「cafe watoto」を開いた。長男、次男とともにJターンで移住してきた2人は自然豊かな忠野の環境にほれ込み、古民家風の店で健康志向の「ゆる薬膳」ランチやスイーツなどを提供している。

 梶本さんは大分県九重町の出身で、僧侶の資格を持つ。京都や大阪で働き、2008年に小浜市に移住した。

 「cafe watoto」は、もともと由美子さんの知人が12年に小浜市谷田部に開き、運営を手伝っていた由美子さんが後を継いだ。さらに、忠野に民家を所有している兵庫県在住の作曲家が借り手を探していたのをきっかけに、店の移転を決め、空調設備などを整えてリニューアルオープンした。

 店の周囲は、のどかな風景が広がる。梶本さんは「夜は真っ暗」と苦笑するが、「夏は近くの川で遊べるし、自然に包まれているような感覚があって安らぐ。うちに来るお客さんは、ある程度長い時間滞在しようという場合が多い」と、市街地にはない魅力を強調する。

 塚本さん夫妻の移住は、住民にとっても朗報だった。近くに住む仲野實さん(71)は「人が集まる店ができたことは活性化にもつながる。応援していきたい」と助力を惜しまない。

 1350円のランチは2週間ごとにメニューが変わり、1日20〜30食の売り上げがある。

 会員制交流サイト(SNS)や口コミで少しずつ評判が広がり、経営は安定してきているという。店はイベントの会場としても活用しており、梶本さんは「いろんな人たちとの縁をつくっていきたい。結果としてにぎわいが生まれれば、うれしい」と話している。

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