『五〇歳からの勉強法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)p106

 少子高齢化が進み、医療や年金の対象年齢の引き上げが進む中、65歳で定年したからといって、悠々自適な隠居生活を思い描くことは、難しくなってきました。
 そんな「高齢者現役社会」を目前に控える50代の社会人に向けて、精神科医、文筆家、映画監督と、60歳を超えても新しい世界で活躍し続ける和田秀樹氏が、50歳からでも新しい世界を開き、勉強を続けるための秘訣をお伝えします。

 「75歳現役社会」と言われて、ピンとくる人はまだ少ないかも知れません。しかし、医療制度や年金制度が対象年齢の引き上げをし始め、少子化による労働力不足が懸念されることからも、もはや60歳で現役を引退するわけにはいかない時代になっていることは事実です。

 このような状況下で、今50代の私たちにできること、それが「勉強」です。50代だけでなく、これからの60代、70代は、勉強を続けて自らを他者と差別化し、希少性を維持する努力を続けなければ生き延びていけないのです。

 これに対し、「年を取ったら、記憶力や判断力が低下するから、新しいことを勉強するのは難しいのではないか」という心配をされる方もいるかも知れません。しかし、この認識にはいくつかの誤解があります。

 ■年を取っても、知能や記憶力は低下しない

 1つ目の誤解は、「年を取るほど知能が下がる」という誤解です。少々古い80年代の調査ではありますが、通称「小金井研究」と呼ばれる、小金井市の一般住民への「WAIS成人知能検査」によると、73歳の段階ですら、いわゆる動作性知能(目の前の要求に対応できるかという知能)は、平均で100を超えており、これは40〜50代の水準とさほど変わりません。

 2つ目は、「年を取るほど記憶力が低下する」という誤解です。私たちが記憶力の低下を最初に自覚するのは、人の名前がなかなか出てこない、「あれ」とか「これ」といった代名詞を使うことが多くなった、といったときではないでしょうか。こうして忘れっぽくなってきた自分に、今さら資格試験や外国語の習得なんて困難だ、と考えている人も多いでしょう。

 しかし、エビングハウスの忘却曲線で見る限り、60代と20代で記憶力に大差はないと言えます。エビングハウスの忘却曲線とは、ドイツの心理学者・エビングハウスが、無意味な言葉の丸暗記から見出した「忘却は覚えた直後に進む」という法則です。彼の実験によると、人は暗記した後、20分後には42%を忘れ、1時間後には56%を忘れ、1日後には74%を忘れるといいます。しかし、そこに年齢差は関係ないのです。

 ■「物覚えが悪くなった」人は復習をしているか

 それでもなお、「現実として加齢と共に記憶力の低下を感じている」、という反論があるでしょう。そういう人たちこそ、このエビングハウスの忘却曲線に注目して欲しいのです。効率良く記憶するためには、この曲線における忘却するまでの時間に沿って復習することが重要だと言われています。そして私たちは、学生時代こんな風に何度も復習して物を覚えてきたのではないでしょうか。

 

 そして、「物覚えが悪くなった」と歎いている人たちは、現在学習にそこまでの意欲と時間をかけているのでしょうか。大人になるにつれて記憶力が落ちていると感じるのは、学生の頃のように意欲を持って復習にあたらなくなることも原因の1つかも知れません。

 加齢によって、知能も記憶力も低下するわけではないとしても、やはり50歳から勉強を始めるのはハードルが高いと感じる人も多いでしょう。そう感じるのには、確かな理由があります。

 その1つが、意欲の低下という問題です。この意欲をどのように高め、それを維持するかが、50歳からの勉強においては最大の課題となるわけです。

 一般的に、意欲が低下しがちになるのは50代半ばあたりからだと言われています。その要因は、前頭葉の老化と、男性ホルモンの分泌量の減少の2つ。特に、男性ホルモンの減少は、直接的に意欲の低下に影響します。代表的な男性ホルモンである「テストステロン」は、意欲や気力、攻撃性、好奇心と密接な関係をもつホルモンだからです。

 これに加え、感情のコントロール、創造性、怒りや不安の処理をつかさどるとされる前頭葉が老化によって委縮することにより、意欲を維持していくことが難しくなっていくのです。

 ■前頭葉の老化防止には“想定外の出来事”が効く

 しかし、「老化だから仕方がない」とあきらめるのはまだ早い。前頭葉の機能を保つ方法は、実はちゃんとあるのです。やり方は至って簡単。その部分を使うことです。足が衰えてきたら足を使う、読書力が衰えてきたら読書をする、というのと同じ発想です。

 では、前頭葉を使うにはどういう生活を送ればよいのでしょうか。それは、日々に少しでも「想定外」の出来事が起こるようにすること。株式投資を始める、イベントに参加するなど、何でも良いので、40〜50代のころから意識的に行っていくといいでしょう。

 逆に、前頭葉を使わない生活とは、同じことを繰り返す生活です。前例や経験に従うだけで、創造性を発揮する機会はありません。会社でのルーティーンワークに慣れてしまうと、どんなに優秀でも、いざ新しいことをやろうと思ったときに前頭葉が働かず、創造性もなければ、意欲も沸いてこない、という状態に陥ります。

 そしてもう1つ、50歳からの勉強を妨げる大きな原因があります。それは「動機の欠如」です。子どものころならば、「受験」や「就職」、大人になってからも「結婚」や「出世」など、人生における明確な目標が設定されており、それがそのまま勉強する上での動機づけになりました。

 しかし、50歳の場合は、これから何かをしたからと言って「人生が劇的に変わることなどない」と悟ってしまっているのです。そこで、自ら目標を設定し、自分で自分を動機づけしていかなければなりません。

 では、何が私たちの目標となり、自分で自分を動機づけできるのでしょうか。私が有名な心理学者やMBAホルダーの人たちと心理ビジネスのシンクタンクをやっていた当時、何が社会人の動機づけになるのかを研究したことがあります。結論として考え出したのは、大きく次の3つです。

 (1)希望の法則
 1.頑張ればうまくいく
 2.十分にやれそうだ
 3.何をどうすればいいかがわかる

 (2)充実の法則
 4.面白い、確実に成長している
 5.自分で決めたことだから頑張る
 6.期待されている

 (3)関係の法則
 7.安心できる
 8.関心を持たれている
 9.一体感がある

 ここで注目したいのは、(3)の「関係の法則」です。

 人が会社を辞める、あるいは留まることを決めるときの大きな理由の1つに、人間関係があるというのはよく知られていることです。

 ときに、仕事や勉強そのものよりも、その過程やそれを習得した結果得られる、望ましい「人との関係」が最大の動機であり、報酬になります。特に、何もしないでいると社会との繋がりがなくなる定年後の生活において、「人との関係」自体が報酬になることの意味は大きいのです。

 これに限らず、何が動機づけになり、やる気を引き出すのかは人それぞれです。たとえば、定年後の生活の安定させるために資格を所得する、若いころから興味があった芸術をやるために絵画教室に行くなど、動機は何でもよいのです。

 ご自身に合った動機を見つけることができれば、あとは勉強することそれ自体が動機づけになります。さらに、勉強の過程で自分が知らなかった世界を知ることで、思ってもみなかった新たな目標や動機が出てくることも少なくないのです。(和田秀樹:精神科医)

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