認知症の高齢者に声を掛ける福井県民生協「ハーツ羽水」の店員。事業所の見守り活動が広がっている=福井県福井市木田3丁目

 「帰る家が分からんのや」。2017年1月、福井県民生協のスーパー「ハーツ羽水」(福井市)。サービスコーナーを訪れた70代ぐらいの男性は、不安げな表情を浮かべていた。認知症だった。女性店員が尋ねるが、名前も住所も分からない。持ち物もなく、手掛かりはなかった。警察への相談を促すと「それは勘弁して」と拒まれた。店内のテーブル席で2時間付き添ったが、迎えは来なかった。

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 男性が帰路を思い出すきっかけになればと、蓬莱谷修久福祉事業部長(42)が試しにドライブに連れ出した。「どっち行きましょうか」「…ここ右やな」。交差点ごとに方向を尋ねながら運転し、3・5キロ進んだところで男性が言った。「おお、ここや、うち」。自宅に無事送り届けたとき、焦りに駆られた家族は捜索願を出そうとしていた。

 県民生協は、高齢者から異変を察した際の手順書を独自に定め、宅配や店舗、介護施設の全従業員に徹底している。路上をうろつく認知症の女性に宅配担当者が気付き、保護したこともある。蓬莱谷部長は「認知症の人が日常生活に苦労するのは、本人のせいじゃなく、環境のせい。少しでも社会に出られるような環境をつくりたい」。地域密着型の事業者として使命感を口にする。

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 認知症による行方不明などに備え、県内各市町が結ぶ地域見守り活動の協定には、県民生協をはじめ、宅配や郵便、新聞、保険、金融など幅広い業種の事業者が参加している。高齢者と接する機会の多い業務の延長線上で、認知症の問題と向き合う意識が広がりつつある。

 農業機械販売・修理の北陸近畿クボタは、県内の全12営業所が各地域の市町と協定を締結。営業社員一人一人が担当エリアの農家に気を配る。「一人歩きの高齢者に声を掛けるのは日常的」(福井事務所)。高齢者に元気で農業を続けてもらうための支援は、本業にもつながるとの考えだ。

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