福井県内各地の落語会に引っ張りだこの葵亭真月さん=11月20日、福井県永平寺町

 日本を代表する芸能、落語。東京では人気若手噺家(はなしか)が続々登場し、江戸時代以来とも言われるほどの落語ブームが起こっている。実は福井も負けていない。福井県出身の女性落語家を主人公に小浜市などを舞台にしたNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」が2007〜08年に放送されたのを機に落語への注目が集まり、各地で優秀なアマチュア落語家が躍動、プロを招いた寄席も盛況だ。

 「外へ出てみますっていうと、女子大生が『きゃー真月くん、一緒に写真撮って〜』なんてんで、大変な騒ぎになってしまいまして。まぁ、そういう夢をたまに見ます。落語家の話すことなんて真剣に聞かない方がいい…」。11月、永平寺町内で開かれた落語会。軽妙な語り口に会場がどっと沸いた。

 福井市の会社員、横田真吾さん(31)=高座名・葵亭真月(あおいていしんげつ)=は10月に大阪で行われた「第8回社会人落語日本一決定戦」でトップ10入り。県内で30人超いるとされるアマチュア落語家の“スター”的存在だ。最近はほぼ毎週末、各地の公民館行事や地域の祭りへの出演依頼が相次ぐ。

 「1人で全て演じるところがいい」と25歳で落語を始めた。県内各地の高座で腕を磨き、15年9月に福井街角放送社長でアマチュア落語家の鳴尾健(瓢家萬月(ひさごやまんげつ))さん(56)と落語グループ「月の会」を結成、今では会員は9人に増えた。同年4月から福井市の響のホールで月1回開く「まちなか落語会」は、最初は50人規模の会場の半分ほどしか入らなかったが、最近は満員になることもあるほどだ。

 噺の「枕」では会社員としての経験や社内の一コマを盛り込み、笑いを誘う。「落語によく出てくる太鼓持ちはどの会社にもいるし、武家噺に見られる士農工商の序列は、上司の言うことに逆らえない企業と共通する」。夢は社会人大会優勝。「『真月なら見に行きたい』と言うレベルになりたい」と意気込む。

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 「ちりとてちん」放送を機に小浜市などで愛好グループが誕生し、コンスタントに落語会が開かれるように。全国女性落語大会も企画され、福井県の落語人気の礎となった。

 落語サークル「ふく福落語会」は10年に結成。女性落語の第一人者、露の都さん(大阪)を招いて福井市の宝永旅館で稽古を積んでいる。1年前に入会した大久保直明(紙家(かみや)がんぴ)さん(30)=南越前町=は「聞く人が自由に想像を膨らませることができるのが落語の魅力」。小林千春(都の亭こはる)さん(52)=坂井市=は小学校教諭で「昔の風習や言葉の使い方が勉強になる」と夢中だ。

 同旅館女将で自らも落語家の国広桂子(都の亭おかみ)さん(47)は「笑いは心の栄養剤。落語で福井を元気にしたい」と言葉を弾ませる。

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 福井市の老舗菓子店の4代目、西川敏弘さん(46)は05年に放送されたテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」をきっかけに落語にのめりこみ、09年に「福井☆落語化計画」というプロジェクトを立ち上げた。「席亭」としてプロの噺家を招き、同市のアオッサなどで寄席を開いている。

 「落語は古典芸能のイメージがあるけれど、敷居の低い大衆芸能。演者と観客の一体感が魅力」。西川さんを手伝った仲間が独自にあわら市や越前市でも寄席を開き、活動は広がりを見せている。

 11月に同プロジェクトの寄席に招かれた江戸落語真打ちの蜃気楼龍玉(しんきろうりゅうぎょく)さんに福井の観客の印象を聞くと「地方の寄席はオーバーなしぐさや分かりやすいネタが定番。だけど福井は聞き慣れている人が多く、ディープなネタじゃないと満足してもらえない」。

 座布団一枚の上で繰り広げられる話芸の魅力とは? 月の会の鳴尾さんは言う。「次から次と新しいものが求められ使い捨てられる時代にあって、落語は日本の文化や話芸が大事に受け継がれてきた“特別天然記念物”。そんなところに人はぬくもりや面白さを感じるんじゃないでしょうか」

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