【越山若水】英BBCテレビが、科学ドキュメンタリー番組でキリストの顔を復元したことがある。黒い巻き毛で肌は浅黒く、丸顔に丸い鼻。画面に映し出されたのは典型的な中東男性の風貌だった▼大量に発見されているユダヤ人の人骨群を元にしたというから、本人に近いのだろう。でも意外感が強い。われわれの知っているのは色白面長の顔だから▼この川柳の大家がつい頭に浮かべたのは、もちろん流布した方の顔である。「基督(キリスト)のやうな顔して鰻(うなぎ)ゐる 川上三太郎」。いけすで見たのか、その顔はひょろり長い▼言われてみれば似ている、と思った途端に笑みが漏れるが、ほどなく気付く。磔刑(たっけい)に処せられたキリストと同様、ウナギもやがて俎板(まないた)に載せられる。似ているのは受難の運命だ▼きょうは土用の丑(うし)。例によって大量のウナギが日本人の胃袋に収まる。いつからの風習かは諸説あるが、夏に蒲焼(かばや)きの香ばしい煙が恋しいのは本能に近い▼その風習の先行きが危ういのはご存じの通り。稚魚の漁獲が激減したのがそもそもの原因で、当然ながらウナギ料理も値上がる傾向に…と悪循環が目立ち始めたからだ▼無理も出ている。国内で捕った稚魚の4割に密漁などの疑いがあるという。大量消費で絶滅の淵に追いやりながら、資源管理はいいかげん。食べる側も反省し、煙で我慢と言いたいが落語のようにはまいらない。

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