【越山若水】哲学入門書で知られる野矢茂樹さんが「哲学な日々―考えさせない時代に抗して」(講談社)で独創的な考えを披露している。題名は「立ち止まる脚力」である▼一般にカッコいい生き方とは、目標に向かって走り続けること、立ち止まらないこと、そして決して振り返らないこと。そんな姿勢が理想的と高く評価される▼しかし野矢さんはゴールを目指して突き進むだけではもったいないと指摘。散歩の途中で見かける季節の流れや鳥の鳴き声、パン屋の匂いに心を開くべきだと言う▼生きることを目的とか意義とか価値とかでなく、その味わいにおいて語る。なぜなら行き先を決め疾走する前のめりな姿勢は非常に危険。速さと効率を優先すれば視野が狭くなり柔軟性を失うからだ▼現在の永田町に目を転じると、その不安が拭いきれない。延長国会も22日で会期末となる。法案を成立させようと躍起になる与党、それを阻もうとする野党の攻防が激しい▼カジノを含むIR整備法案では野党が西日本豪雨救済より法案審議を重視する姿勢を問題視。受動喫煙防止法でも例外の多い骨抜き規制に批判が強い▼今まで安倍晋三政権の独断専行を幾度も見せつけられた。野矢さんは個人よりも国家こそ、前のめりにならず自分の行動を問い直す余裕が必要という。日本の政治に「立ち止まる脚力」があるか、極めて心もとない。

関連記事