海に面した野原に牛が放牧され、のどかな時間が流れる小値賀島=長崎県小値賀町

民泊した米国人修学旅行生の写真を前に「喜んでもらえて感動した」と語る山田さん(左)

 青い海と切り立った崖。手つかずの自然の中で、野原に放たれた牛が草をはむ—。長崎県の佐世保港からフェリーで西へ3時間。五島列島の北部に浮かぶ小値賀島(おぢかじま)には、リゾート施設もコンビニもない。観光サイトには、ずばり「何もありません」。

 大小17の島々からなる長崎県小値賀町は人口約2600人。ただただのどかな時間が流れる離島に、年間約2万3千人の観光客が訪れ、全国から脚光を浴びている。

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 自然と共存し自給自足や物々交換の暮らしが息づいてきた小値賀町の転機は2007年。米国の民間教育団体による国際修学旅行を町が誘致し、2カ月間に200人規模の米国人高校生を民泊で受け入れた。野菜の収穫、魚さばき、盆踊り。農家や漁師たちのありのままの暮らしを体験してもらった。

 「英語はもちろんしゃべれんし、どんな食事なら気に入ってくれるんやろか」。不安の中で畜産農家の濱元照美さん(61)は、普段通りの家庭料理を振る舞い、身ぶり手ぶりで心を通わせた。「温かいおもてなしに感謝します」。フロリダ州出身の男子高校生が残していったメッセージカードの意味を知り、自然と涙があふれた。「ごちそうなんていらなかった。庭の野菜を使うのが最高のもてなしなんだと気付かされた」

 国際修学旅行の訪問先となった世界約50地域の参加生徒の満足度調査で、小値賀は07、08年と2年連続でナンバーワンの評価を得た。受け入れ担当だった町職員の神崎健司さん(35)は振り返る。「海外からの評価が島民の大きな自信につながり、新たな可能性が開けた」

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 民泊は小値賀の売りになった。当初7軒で始まった受け入れ民家は約30軒に増えた。旅人を家族と同じように迎え、台所で夕食の郷土料理を一緒に作ったり、農作業や漁を手伝ってもらったり。生の暮らしを味わえるのが、思いのほか人気を呼んだ。

 民泊8年目の山田ヨシ子さん(70)は「住んでいるだけでは分からなかった『当たり前の良さ』が、よその人に楽しんでもらうことで実感できた」。年間約150人の宿泊客には、「お母さん」と慕って手紙をくれるリピーターも。英国の映画制作者、ウィーンのカップル、タンザニアの医師と、外国人も少なくない。「小値賀にいながらにして世界中の人とつながれる。みんな親戚みたいなものよ」

 札幌市から初めて島を訪れた夫婦は「昔ながらの生活を大事に継承している空気に触れたかった」と話した。「何もない」島の観光消費額は、旅館・民宿も含めた宿泊業だけで年間1億3千万円、総額ではその2倍程度に上るという。

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