福井県鯖江市内のカフェでコーヒーをたてる塚本浩二さん

 福井県鯖江市の体験移住事業「ゆるい移住」を経て市内に住み続けている若者の中に元プロ野球選手がいる。大阪市出身の塚本浩二さん(34)。2009年から2シーズン、投手として東京ヤクルトスワローズに在籍した。思い描いたような活躍はできずに選手生活を終え、人生の変化を求めて漂うように鯖江に来た。縁もゆかりもない地で新たな人々と出会い「これまでで一番充実している」と今を楽しむ。

 中高とも野球部だった塚本さんは、進学先の神戸大でも近畿学生リーグで活躍。社会人野球を経て06年に四国アイランドリーグ(当時)の香川オリーブガイナーズに入団し、活躍が認められヤクルトから育成選手として指名された。

 09年の春季キャンプから1軍でスタートしたもののプロの壁は厚く、10年のシーズン終了後に戦力外通告を受けた。その後、日米の独立リーグを渡り歩いたが11年に選手生活に別れを告げた。香川県丸亀市や大阪市のうどん店に勤めた後、15年にゆるい移住で鯖江市を訪れた。

 「ずっと逃げてばっかりなんです」。塚本さんは自嘲気味にこれまでを振り返る。「社会人野球へ進んだのは就職活動が嫌だったから。野球を諦めたのも競争が肌に合わなかった」。引退後勤めたうどん店では元プロ野球選手という経歴を知る周囲からの注目を嫌った。

 鯖江市への移住もネットで偶然見つけ決めた。どこでもよかった。それでも新たな暮らしで求めていた「変化」を感じることができた。ゆるい移住の参加者の中にはIT系企業やコンサルタント会社の元社員らがおり、自分とは異なる考え方に触れた。市内の行きつけのカフェで週1回店番をするなど、地域とのつながりもできた。

 また、ごみ問題について興味を持ち処理施設を見学したり、市議会を傍聴することも。人生の価値観を再構築するかのように、これまで当たり前だった生活の成り立ちに目を向け始めた。

 「貯金が尽きるまで鯖江にいるつもり」と塚本さん。前に進みたいとも後退しているとも思わない。「その場しのぎで構わない。自分なりに道なき道をいきたい」。変化球主体だった元投手は、人生との“真っ向勝負”からは降りるつもりはない。

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