家具職人の山口祐弘さんが制作し、海外からも注目を集めた越前箪笥のキャリーバッグ=18日、福井県越前市大虫町

 越前箪笥(たんす)の金具「猪目(いのめ)模様」に、女子高生が「ハートがいっぱい。かわいい!」と声を上げた。福井市の西武福井店に展示された小ぶりの箪笥。ころころと転がるキャスターとスライド式の持ち手がついたキャリーケースだ。制作した家具職人の山口祐弘さん(40)=越前市=は、越前箪笥の需要が減っていく危機感の中、この歓声に「これはいける」と直感した。

 キャリーケースを制作したのは2年前。県内の異なる伝統工芸職人7人でつくる「七人の侍」が参加したファッションショーへの出品のためだった。国内のネットニュースに取り上げられると、米国、ロシア、韓国からも取材が相次いだ。山口さんは「家具をキャリーケースというファッションアイテムにしたことで、周囲の反応が明らかに変わった」。

 ピンク色の箪笥金具は異質かもしれない。それでも山口さんは「伝統は大切だが、自分たちが稼いでいかないと越前箪笥自体が消えてしまう」と前を向く。七人の侍のうち5人は丹南地域で活動している。「これだけ伝統工芸が集積している土地はない。職人同士でつながっていけば、何か新しいことがやれる。積極的に海外に挑戦したい」

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 江戸時代、敦賀は北前船が寄港して昆布の中継地として栄えた。敦賀市の老舗昆布専門店「奥井海生堂」の蔵には、古くは30年以上保管している「蔵囲(くらがこい)昆布」がある。温度と湿度を徹底管理してうま味を熟成。その技法は、雪深さのため消費地に運ぶまでに一冬を越さなければならなかった敦賀だから生まれた。最高級の昆布は、「世界のレストラン50」で3年連続1位に輝いた北欧の「ノーマ」からも注文を受けた。

 「地域の歴史や伝統、文化に裏付けされた付加価値が重要」。奥井隆社長は、産地や年代で味が異なるワインとの共通性を昆布に見いだした。「福井の人はコンプレックスを嘆いてばかり」だが、食材の価値を生み出す「テロワール」(風土性)に目を向ければ、「福井の伸びしろはいくらでもある」。昆布のみならず、和食を支えてきた福井の「テロワール」は、世界に通用するはずだと説く。

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 スローフード、シンプルでサスティナブル(持続可能)な暮らし—。近年、世界が注目するライフスタイルのすべてが福井にある、と話すのは安本幸博・県観光営業部企画幹。日本航空社員として欧州に計8年駐在した経験を踏まえても「特色ある食があり、それを提供する伝統の器やはしもそろっている。これだけ恵まれた土地はそうはない」と太鼓判を押す。

 にもかかわらず、福井県に昨年宿泊した訪日外国人観光客数は全国46位。県全体のインバウンド促進を担う安本企画幹は「誇れるものはすでにある。ただ、県民がそれを意識しないと真のブランディングにはつながらない」と指摘。奥井社長も「福井のいいところをいかに論理的に言葉にして伝えていけるかが大事」と発信力の強化を課題に挙げた。

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