空想まちづくり坂井市編(イラスト・fuプロダクション)

芝生が広がるふれあい広場。一部はもともと丸岡城の内堀だった(福井県坂井市の一筆啓上日本一短い手紙の館から撮影)

辻雄大さん

小垣内勉さん

土田規予子さん

 ◎坂井市・提案編

 歴史の趣を感じさせる内堀を横目に見ながら、多くの観光客が国宝の丸岡城天守を目指して歩いて行く。復元された内堀越しに眺める古城の姿は風格たっぷり。親子連れや老夫婦が、日本でたった12しかない現存天守をバックに記念撮影をしている。堀を渡って城内に入ると、着物姿や甲冑(かっちゅう)姿のガイドが城の歴史を伝えてくれる。

 お目当ての木造天守へ。最上階から周囲360度を見渡せば、特徴的な五角形の内堀が一望できる。堀の向こうには、明治維新後に一度は失われた城下町の雰囲気を醸し出す町並みも見える。天守を降りたら散策してみよう、そんな気分にさせてくれる景色だ。天守を後にした観光客は、歴代城主の菩提(ぼだい)寺など周辺の名所を目指していった。

 よみがえった城郭の姿を一目見ようと交流人口は目に見えて増えた。内堀の復元工事を「丸岡城総普請」と名付け、当時の道具を使った工事の再現をイベント化したことで坂井市内外の注目を集めることにつなげた。

 観光客の多くが内堀周辺の散策に繰り出すようになり、自然と周辺の商店は活気を取り戻した。若者は空き店舗を活用し、城下町風の町並みに溶け込んだカフェや雑貨店を経営。地元の人が集う場所も生まれた。古城の復活は市全体の観光にも好影響を及ぼし、東尋坊やゆりの里公園、竹田地区などへ観光客を誘導する一大拠点となった。(久保和男)

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 県内9市の担当記者がまちの人たちと一緒にアイデアを膨らませ、空想のまちづくり事業として提案する連載。第8回は坂井市編をお届けします。

 ◎坂井市・根拠編

 古城の全容現代に再び

 辻さん「丸岡城の本当の姿 イメージできる」
 小垣内さん「ハード以外に ソフトも活用を」
 土田さん「住民の愛着 高める整備に」

 坂井市の丸岡城の内堀を復元しようという構想は、旧丸岡町の周辺整備基本構想に盛り込まれ、今年に入っても市民グループ「まるおか城の会」が市長に提言するなど、これまでもたびたび持ち上がっている。江戸時代以前から現存する全国12天守の一つという遺産を後世に伝えるための環境整備と、観光客の滞在時間を延ばすことで周辺の活性化につなげることが大きな狙いだ。

 近年の城ブームもあり、丸岡城天守の有料入場者数は2010年度の9万人台から、昨年度は約15万人と右肩上がりだ。一方で観光客は天守に登るとすぐ帰ってしまう人がほとんど。城下町へ足を向ける人は少ない。市丸岡観光協会によると、マイカーやレンタカーで訪れる個人客が多く、天守のすぐ近くに駐車場がある恵まれた立地が、皮肉にも登城即帰宅という現象につながっているという。

 同協会の辻雄大さん(35)は「滞在時間は平均40〜50分程度でしょうか。観光客の『ほかに何もないよね』という言葉が胸に刺さります」と語る。明治維新後、丸岡城のやぐらや門などは売却され、内堀も1948年の福井地震後には完全に姿を消した。震災により城下町の痕跡も失われてしまい、天守以外はほとんど残っていないのが現状だ。

 「内堀ができれば、元々の姿をイメージしやすくなるでしょう。記念撮影のポイントにもなります」と指摘。「周辺を散策する人が増えれば商店街も活気づく。若い人も空き店舗を活用しようという気になってくれるかも」と、活性化への好循環を生み出せるのではと語る。

 内堀復元を目指す際の大きな課題は費用と、内堀があった敷地に民家や小学校があること。そのため天守北東にあるふれあい広場や東側の霞ケ城公園での一部復元が現実的な目標となりそう。

 「全面的な復元は難しい。ハードだけではなくソフトで見せることも考えては」と提言してくれたのは「まるおか城の会」の小垣内(こがいち)勉さん(53)。一部復元とともにスマートフォンなどで当時の城郭の姿を想起させる映像が見られるソフトを作り、観光客に活用してもらおうというアイデアだ。「内堀があれば観光客を周辺散策へと誘導できる。国宝化の機運が高まっているので、周辺整備については住民も関心があるでしょう」と理解を示してくれた。

 丸岡城周辺で月に1回開催している「しろのまちマルシェ」の事務局土田規予子さん(40)は、市外から訪れる観光客だけでなく「住民にとってメリットや利益が生まれるような整備でなければ」と指摘する。「お堀の中をボートで楽しめるとか、お堀沿いにカフェが立ち並ぶとか、普段から若い人たちが集まり、住んでいる人が愛着を持てるスポットにする工夫が必要。通り1本でも統一感のある町並みがつくれれば、自然と観光客も集まってくるはず」。確かに市外から訪れる人だけでなく、地元住民が日常的に親しめる形での整備が理想的だ。

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 ◎坂井市・調査編

 坂井市の交流人口を増やす起爆剤にと提案した丸岡城の内堀復元。内堀があったエリアは現在、住宅や小学校があるため、天守北東に位置するふれあい広場など市有地での一部復元が現実的だろう。同広場のうち3千平方メートル超が内堀だったとみられる。

 実現の可能性を市文化課にぶつけてみた。「一番の問題は費用。それに内堀だけを復元すればいいのか。城周辺の再整備という全体的な計画がまず必要」と課題を挙げた。特に予算については、いざ着手しても発掘調査次第で当初の想定額を大幅に超える可能性もあり、まったくめどは立たないとのことだ。

 予算の参考になればと、先進事例をいくつか調べた。大分県中津市は2000〜07年度にかけて中津城の内堀を復元した。費用はおよそ3億1300万円で、堀約1600平方メートルと石垣を再生した。同市文化財室は「堀の復元で城の雰囲気はがらりと変わった。観光客の反応も全く違っている」と効果を語る。石川県は金沢城の外堀「いもり堀」を一部復元した。発掘調査と工事を03〜09年度に行い、約3700平方メートルで事業費は約5億円だった。

 条件が異なるため、単純な面積の比較で予算のめどは立たないが、いずれにしても相当の費用と期間が必要だ。取材中には「ただ土を掘るために税金を使うなんて」という声も聞かれた。公金の負担を減らすため、市民の寄付を活用する手法も考えてみた。

 熊本城は市民参加型で城郭を再現しようと、全国に先駆け「一口城主」制度を導入した。熊本城総合事務所によると、築城400周年に向け本丸御殿の復元を目標に掲げたところ、1998年〜2007年になんと約12億円が寄せられた。09年から再び募集を始め、今年4月の熊本地震までに約6億円を集めた。

 一口城主には天守内部に芳名板を飾るほか、市内の有料施設が無料で入場できる「城主手形」を発行した。15年度には約180万人が訪れた熊本城だが、県外からの寄付は3割程度。毎年寄付する人も多く、市民参加の制度として定着していたという。

 坂井市にも、丸岡城天守入場料の余剰金などを積み立てる丸岡城周辺整備基金がある。残高は現在約2億円だが、基金には急な修繕への備えという意味合いもあり、全額を充てることは難しいという。

 坂井市には事業ごとに目標額を設定し寄付を募る、同市版ふるさと納税の「寄附による市民参画制度」がある。現在は環境対策など8項目で募っているが、同制度で内堀復元の費用を募ることはできないだろうか。

 市企画情報課は事業費の算出が難しく、また金額が大きいと集まりにくい面はあるとしながら「目的が分かりやすく、市民にとって魅力があればある程度の額は集まるだろう」と指摘する。まずは明確な目標と計画を掲げることで、復元への第一歩を踏み出せるのではないか。

 ■記者はこう見る 実現可能性50%

 せっかく天守があるのに、明治維新と福井地震で失われた城郭や城下町が残っていれば—。丸岡城の内堀復元を取り上げたのはそんな思いがあったからだ。内堀復元は見た目のわかりやすさを考えた提案だが、真っ先に取り組むのは門でも櫓(やぐら)でもかまわないと思っている。佐賀県が「百年構想」を打ち出して佐賀城周辺整備に取りかかっているように、往時の姿を取り戻すことは一朝一夕ではできない。まずは城郭復元への第一歩を踏み出すことが重要だ。それさえできれば、いつかは内堀も復元できるのではないか。

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【意見募集】

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