『50歳からの出直し大作戦』『50歳からの勉強法』『退職金バカ』——。このところ話題の新書。そのキーワードは50歳である。

 今年、2016年に50歳を迎えた人たちが社会人になった年は1989年。この89年という年はまさに近代史が凝縮されたような年であった。1月に昭和天皇が崩御し、時代は昭和から平成へ移る。6月には中国において、民主化をもとめた市民と軍が衝突した天安門事件が起きる。11月には東西ドイツを分断していたベルリンの壁が崩壊した。

 経済ニュースも驚きの連続だった。ソニーによるコロンビア・ピクチャーズの買収、三菱地所によるロックフェラーセンターの買収が発表されたのはこの年だった。米国が世界に誇る映画産業とニューヨークという巨大都市の象徴が日本企業によって買収されたという出来事は、米国人のブライドをずたずたにした。当時は米メディアなどから、「パールハーバーの再来」「アメリカの魂が買われた」と非難されたほどだった。

 ■50歳は前の世代と比べて恩恵を受けていない

 そして、この年の年末。日経平均が4万円の大台まであと1000円近くに迫る史上最高値を付ける。誰もがこの好景気がどこまでも続くと楽観していた時代。まさしくバブル経済の頂点だった。

 バブル世代の末っ子ともいうべき存在が今年50歳を迎えた人たちなのだが、実際は前の世代と比べて、その恩恵はあまり受けていない。史上最高値を付けた日経平均は翌年には半値水準まで下落してしまう。金融、不動産、建設……と日本の産業界も次々と変調を来す。振り返って見れば、失われた10 年〜20年の入り口ともいえる時代だった。

 週刊東洋経済は10月31日発売号で『50歳から増やすおカネ』を特集。今の50歳が退職後に直面するおカネの問題を追っている。会社勤めのサラリーマンなら定年まであと10年の段階だが、華々しいフィナーレとはいかないと思ったほうがいいだろう。アベノミクスはすでに金属疲労を起こしている。退職金はきちんともらえるのか? 年金は大丈夫なのか? そんな不安をぬぐえないまま60歳までの10年間を過ごさなければならないのだ。

 フィデリティ退職・投資教育研究所が今年行った、サラリーマン1万人アンケートによると、サラリーマンが退職後の最も大きな心配事として挙げているのは、「生活費が足りなくなること」である。みんな漠然とした不安を抱えている。50歳、あるいは50代の視点で見ても、結果は同じだろう。

 厚生労働省によると2015年の日本人の平均寿命は女性87.05歳、男性80.79歳。60歳から20年以上生きるのである。夫婦二人の世帯は老後にいったい、いくらのおカネが必要になるのだろうか。専門家たちに聞くと、「1億円は必要となる」という。

 

 金融広報中央委員会の2015年の調査によると、50代の金融資産は平均で1941万円だが、これは一部の超富裕層に全体平均が引き上げられているだけだ。金融資産を保有している人に限って、保有額の少ない順(あるいは多い順)に並べたときに、真ん中に位置する「中央値」は約1100万円となる。これが平均的な実態と考えていいだろう。定年後の生活を考えると、ちょっと心もとない。

 大卒で大企業に勤めているサラリーマンなら、2000万円程度の退職金を手にすることができるはずだが、平均的な世帯で考えると、60歳を迎えるまでにやや増えた現金にそれを足しても、住宅ローンの返済、子どもの教育費、日常の生活費などを考えていくと、年金の支給があるとしても心もとない。

 ■定年前におカネを増やすことを考えなければならない

 かといって、何かおカネを増やすことを実行していたり、考えていたりする人は少数派と言われる。定年退職の60歳のとき、「おカネが足りない」とじたばたしても現実的にはもう遅い。遅くとも、その10年前くらい、50歳の時点で自分のおカネをどう増やしていくかを考えなければいけないのだ。

 もちろん、50歳はまだまだ働き盛りで、大事な仕事がある。引き続き仕事に全力投球しなければならない。だが同時に手持ちの資金の拡大策も考えなければいけない歳だ。仕事と資金運用の両方である。

 それは60歳で終わりでなく、その後も継続していくことになる。90歳までは生きていくことを前提に考えなければいけないからだ。そのためには絶えずおカネを生み、増やしていく必要がある。まずトータルの目標額として視野に入れるのが1億円ということになるだろう。

 大事なのは50歳になったら意識を変えることだ。『退職金バカ』の著者、セゾン投信の中野晴啓社長は最初に生活コストを引き下げることを提案する。それによって生み出した資金を投資に充てるのがいいと。「銀座のクラブは止めて、居酒屋にしましょう。シャツはユニクロでいいじゃないですか。分譲マンションも川向こうの埼玉に買い換えるだけでずいぶんと違います」(中野社長)。

 ライフスタイルマガジンの特集にあるようなケチケチ作戦とは違うらしい。中野氏は「もっと根源的な価値観の改革ですよ。自分の殻を捨てられる歳だからこそ、実行できるはずです」。毎月10万円浮かすことができたら、その10万円から長期スパンで投資を始めるのがいいとアドバイスする。定年退職まであと10年、おカネの増やし方次第で老後はまるっきり違うものになるはずだ。(堀川美行:東洋経済記者)

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