【論説】米国が中国に対する制裁関税を拡大し、9月にも発動すると発表した。これとは別に、既に決めていた制裁の一部発動に踏み切った。輸入品値上がりの直撃を受けるのはほかならぬ米消費者。現実的には踏み切れないだろうとの観測もあったが、あっさり裏切られた。中国もただちに対抗、世界1位と2位の経済大国同士が「貿易戦争」に突き進む。世界経済への波及は避けられない情勢だ。

 米国が中国の知的財産権侵害に対抗することを掲げて、これまでに発動あるいは発動方針を明らかにしている制裁関税の対象は、計2500億ドル(約27兆5千億円)分の輸入品。昨年の中国からの輸入額約5050億ドルの半分に当たる。

 トランプ大統領の狙いは大きく二つ。一つが11月の中間選挙に向けて貿易赤字解消や国内雇用の維持・創出を図ること。もう一つが中国とのハイテク分野での争いで覇権を握ることとみられている。2500億ドルのうち、7月6日に発動した第1弾の対象は340億ドル相当、818品目。企業向けハイテク製品を狙い撃ちにしたものだった。

 しかし、米の制裁関税には理解に苦しむ点が多い。10日に発表された制裁拡大分には、テレビ、家具、ハンドバッグ、農水産品など、米の国民生活に密着した輸入品を多数含んでいた。米通商代表部(USTR)が「一般消費財は制裁対象に含まれない」としていた米国民向け釈明がほごにされた形で、発動されれば消費鈍化は避けられない。

 高関税で傷つくのは米企業も同様である。制裁対象には自動車などが含まれ、中国に進出している米ゼネラル・モーターズ(GM)は「競争力を損ない、米国内の雇用も減る」と懸命に反対したが政権に通じなかった。

 米の通商政策では、鉄鋼輸入制限を巡っても、欧州連合(EU)による報復措置を回避するため二輪車メーカーの米ハーレーダビッドソンが製造の国外移転を決定した。電気自動車の米テスラが上海に大規模工場を建設するのも貿易コスト軽減が狙いとされる。

 「米国第一」とばかり世界に一方的要求を突き付ける「トランプ流」が、かえって米国に打撃を与えている。知的財産権侵害に対し毅然(きぜん)と対応する、との姿勢自体は米国内で支持されているが、中国から交渉で譲歩を引き出そうとするなら、国際社会と協調しておくことが欠かせないはずだ。

 米中の報復合戦が続けば世界の貿易活動は停滞を余儀なくされ、製造業で広く浸透する国際分業は混乱を極めるだろう。米国や中国で活動する日本企業など、世界中への影響が計り知れない。

 トランプ氏は「振り上げた拳を下ろせなくなっている」との見方も出ている。日本は北朝鮮の非核化では米国を支えていく立場だが、貿易分野では自由貿易のルールから逸脱する米国の対応を認めるわけにいかない。国際社会と連携し、米中に自制を求め続けることが重要だ。

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