働き方は人ぞれぞれ

 転職するなら誰もが「恵まれた時代」なのでしょうか? リクルートキャリアが発表した転職求人倍率(2016年9月)は1.79倍と高い水準を維持。求人数は前年同月比124.8%、登録者数(転職希望者)は前年同月比114.1%。転職を希望する人より求人数のほうが多く、企業側にすれば採用がますます難しくなっているのがわかる数値です。

 職種別でみるとインターネット専門職(5.07倍)、組込・制御ソフトウエア開発エンジニア(4.40倍)、建設エンジニア(4.20倍) などが高い倍率となっています。新卒採用は将来に向けての投資、中途採用は即戦力の人材に対するニーズと言われます。今、多くの会社は目先活躍してくれる人材の確保に迫られているのでしょう。

 ■中途採用で大苦戦する会社

 当然ながら、知名度や待遇面でハンデのある会社は中途採用で大苦戦することになります。取材したゲーム開発系の会社は、創業5年で急成長してきました。待遇面は同業に比較して、決して恵まれたものではありません。それでも「いいゲームを世に送り出そう」という経営陣の想いに共感して転職してくるエンジニアやクリエーターが何人もいました。ところが、こうした状況に変化が訪れたようです。今年に入り、中途採用による新規採用がまったくできない状態になりました。そもそも、求人サイトに掲載しても応募はゼロ。そこで、紹介手数料がかかることを覚悟して人材紹介会社の営業に

 「若手のエンジニア、クリエーターを急募している。お願いしたい」

 と連絡。それなりの手数料を払うのだから早々に紹介してくれるに違いない……と期待して採用条件や求める人物像を説明しました。すると、「この条件では厳しいかもしれませんね」と営業からコメントがありました。それを聞いた人事部長は「仕事なのだから、文句は言わずに紹介してください」とキツク言い返しました。すると「わかりました、やるだけ、やってみます」と力ない回答を返して営業は帰っていきました。

 では、その後、どうなったか? 結局、1人も紹介されることはありませんでした。営業担当に連絡をして不満を伝えたところ、どうしても人材が必要なら

 ・年収など待遇を改善する

 ・求める人材のレベルを下げる

 といった条件変更をと突き付けられたとのこと。だからといって、待遇を簡単に改善したり、求める人材のレベルを下げるわけにはいきません。人事部長は期待できそうにない、営業担当からの紹介を待つしかない状況が続きそうだと嘆いていました。

 ■オフィスワークをめぐる椅子取り合戦

 それだけ、企業にとっては厳しい時代が続いています。一方、転職したい人が誰でも希望する仕事がみつかるというわけではありません。これだけ求人倍率が上昇しても、1.0を超えない、仕事も幾つかあります。

 その代表的なひとつがオフィスワークと呼ばれる事務職。書類作成やデータ入力、などの事務作業から、電話や来客応対など幅広い役割が求められます。この職種で転職希望をするのは大半が女性で、転職希望者がたくさんいますが、退職者が少なく、求人数も多くないため、自然と転職求人倍率は低下。2016年4月の「オフィスワーク=事務職」の転職求人倍率は0.44倍(昨年同月0.53倍)でした。ここのところ0.4〜0.5倍台で推移しており、競争率が高く、仕事が少ない状況が続いていると言えます。

 社員たちのITスキルが向上して、事務を別の人に頼まずに済ませられることも、求人が増えない背景にはあるでしょう。

 CNNのニュースでは、オフィスワークは電話セールス・訪問セールスなどと並び、消えゆく職種の代表格として紹介されました。オフィスワークでない別の職種で仕事を探せばいいようにも思えますが、オフィスワークは依然として高い人気があります。

 

 たとえば、派遣社員から正社員になりオフィスワークで働くことを希望する女性は多くいます。総合職になり、責任の重い仕事を任されるのは荷が重い、定時に帰りやすいといった理由で希望する人も。一方、本当にオフィスワークが得意で、PCスキルを磨いて事務の専門家を目指したいというポジティブな理由の人もいます。

 取材した派遣社員のSさんは、オフィスワークで転職するために地道な努力を続けていました。職業訓練でPCスキルを証明するMOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)と簿記三級を取得。加えて、実務経験がないと正社員になれないと考えて、日々の仕事にも熱心に励んでいるようです。Sさんに限らず、オフィスワークを熱烈に志望する人は本当にたくさんいるのです。

 ここで、ますますオフィスワークをめぐる椅子取り合戦が過熱する傾向も出てきています。

 ここ最近、一般事務を希望する女子大生が増えているのです。

 一生働くことや体力を考え、長く地道に続けられそうなことから、オフィスワークを希望。出産・育児の両立を考えれば長い目でみて有利と考えての選択とも言えます。“腰掛け”でなく、一生涯働く場所、職種としてオフィスワークを選ぶ女性がたくさんいるのです。

 しかも、上位校の女子大生がオフィスワークを希望するようになりました。責任の重い仕事はしたくないとか、プライベートを充実させたいという理由もあるようですが、その結果として大企業のオフィスワークで100倍を超える狭き門になる会社まで登場しているようです。

 ■オフィスワークに固執せず、視点を広げてみる

 このように、オフィスワークは女性にとって普遍的に人気のある仕事です。ただ、先述したとおり、今後オフィスワークの仕事が増えることは考えがたい状況です。IT化、ロボット化の進展によって、ますます削減されていく可能性もあります。給与も上がりにくく、求人の数が希望者の数に比べると少ないので、いったん離職すると再就職が難しい状況が続くのも間違いありません。それでも、(女性たちは)オフィスワークでの転職にこだわるべきか? やはり、求人倍率が高いもの、たとえば販売サービス、企画管理などまで職種の選択肢を広げて考えていくべきではないでしょうか?

 たとえば、金融業界で増えている窓口販売職や「未経験でもOK」な店長候補の仕事など転職サイトやキャリアアドバイザーを通じての求人紹介で探せる仕事はたくさんあるはずです。オフィスワークに固執して機会を狭めるくらいであれば、視点を広げて転職活動に取り組んでみてはどうでしょうか。

 また、政府は女性活躍推進の実現を目指していますが、これだけ女性たちから根強い人気のあるオフィスワーク、その雇用機会をどうするか、もっと考えるべきかもしれません。女性活躍推進といくら叫んでも、女性たちがやりたい仕事、実際にやれる仕事が少ない状況では、その目標の達成は容易ではありません。

 先ほども書きましたが女性が生涯働くならば、どんな仕事を選ぶのか?と考えたときに、オフィスワークが減り続けていくなかで仕事を探せるのか? むしろ、女性の働く機会が減る可能性さえ感じます。今後、政府が取り組む働き方改革で、その問題をどうするのか、ぜひテーマのひとつとして取り組んでほしいと思います。(高城幸司:株式会社セレブレイン社長)

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