記者が考える私たちのまち (イラスト・fuプロダクション)

牧野百男市長(左)と意見を交わす市民主役条例推進委のメンバーたち。市民協働のまちづくりが進む鯖江市なら、市長員制度は実現できると提案してみた=同市役所

齋藤留美さん

柳澤麻未さん(右)と比楽綾香さん

黒田重治さん

 ◎鯖江市・提案編

 鯖江市長を中心にサラリーマンや高校生、越前漆器の職人、主婦がテーブルを囲む。胸には「市長員」のバッジ。無作為で選ばれた人たちが鯖江の課題に向き合い、自由な発想で未来のまちづくりについて意見を交わす。「中心市街地を眼鏡のテーマパークに」「使われていない漆器工房を外国人向けの体験施設にしては」。突拍子もないアイデアでも市長はじっくりと耳を傾け、行政と市民、地域の思いが重なっていく。

 市民が司法参加する裁判員制度ならぬ「市長員制度」。市民協働まちづくりの全国のトップランナーの鯖江市がさらなる推進に向け、究極の市民参加型行政システムを打ち出した。月に2回、10人程度をランダムに選ぶ。市内在住または市内に通勤通学する人が対象で、年齢は女子高生でつくる「鯖江市役所JK課」の実績を踏まえ15歳以上。任期は2週間。その場で決まる政策もあれば、次の市長員に実現の可否をゆだねることもある。

 オープンデータのまちとあって、議論の様子や政策実現までのプロセスはインターネットで公開している。任期を終えた市長員は自らが携わった施策の行方を見届けることができるし、次に市長員になる人は“予習”ができる。制度の定着に伴い、任命を受けた社員を引き留める企業はゼロになった。住民一人一人の思いが積み重なり、お眼鏡にかなう市政が実現されつつある。

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 福井県内9市の担当記者がまちの人たちと一緒にアイデアを膨らませ、空想のまちづくり事業として提案する連載。第7回は鯖江市編をお届けします。

 ◎鯖江・根拠編

 市民主役の起爆剤に

 齋藤さん「同じメンバーの委員会 選び方変えよう」
 柳澤・比楽さん「多様な意見に 向き合う土壌ある」
 黒田さん「まずは参加 知ることで愛着」

 市民の総力を結集して成功させた1995年の世界体操選手権鯖江大会以降、市民協働のまちづくりが進む鯖江市。市長員制度はさらなるステップアップにと提案してみた。主眼に置いたのは、まちづくりに携わる市民の輪を広げること。参画する市民の固定化を指摘する向きもあり、現状打破への起爆剤につながると考えた。

 同市は99年、ボランティア団体の活動を支援する鯖江市民活動交流センターを旧市立図書館に開設、公設民営型の施設は当時注目を集めた。2010年には「市民主役条例」を施行。女子高生でつくる「鯖江市役所JK課」も生まれ、市民協働への歩みを着々と進める。

 鯖江市の人口は昨年9月に6万9026人となり、1955年の市制施行以来最多を記録。県内の市町で唯一、人口が増え続けている。福井、越前両市に挟まれ、転入者が少なくなく、市外へ勤める人の“ベッドタウン”にもなっている。その人たちにいかに鯖江を古里として感じてもらい、まちづくりに参画してもらうかが課題の一つだ。

 住民有志でつくり、市民協働の提言・実践を行っている市民主役条例推進委員会のさばえブランド部会長を務める齋藤留美さん(56)も危機感を抱いている一人。同委が開くまちづくりイベントに「新しい人はなかなか来ない」。一部が市民から選ばれる市の外部評価委や審議会の委員も固定化の傾向にあるといい、「選び方を変えなければ、意識を持つ市民の拡大にはつながらないのでは」と指摘する。

 市長員の参加対象を市内に通勤通学する人も加えるようにアドバイスをくれたのは、全国の大学生が鯖江に滞在して地域活性化策を練るコンテストを運営する学生団体「with」の柳澤麻未実行委員長(22)=県立大4年。「住民にとって当たり前のことでも市外の人には新鮮に映る。地元の魅力を再発見できる人たちだ」と力説。愛知県出身で副実行委員長の比楽綾香さん(21)も「まちづくりにとってよそ者の視点は重要」とする。2人はコンテストの経験を基に「鯖江には職員や市民がさまざまな意見に真剣に向き合う土壌がある」と、市長員制度を前向きにとらえる。

 市長員は無作為に選ぶことを想定。つまり強制参加。その狙いの一つを代弁してくれたのは同市北中山地区まちづくり委員会の黒田重治副会長(74)。「まちづくりにとって大切なのはまずは参加し、地元を知ること。そうすれば愛着が生まれる」と語る。

 北中山は市内10地区の中で2番目に人口が少ないものの、同委には地区民160人が所属し、地域を盛り上げている。中には区長からの推薦を断れずに参加する会員もいるというが、「ほかの人から刺激を受け、最初は消極的な人も頑張ってくれる」。任期の3年を過ぎても3分の1の会員は残るそうだ。

 ◎鯖江・調査編

 市民協働の輪を広げようと提案した市長員制度。鯖江市政の課題について行政と市民が意識を共有し、問題解決を図るという趣旨については多くの市民の賛同を得ることができた。一方で、無作為かつ強制的に任命する手法については賛否の声が聞かれた。

 「強制的な力では人は動かない。やりたい人をいかに集めるかが重要だ」。同市のNPO法人「さばえNPOサポート」初代理事長の清水孝次さん(61)は記者の提案に表情をゆがめた。若い頃から市民活動に情熱を注いできた身からすればもっともな意見。「携わる人は目的をしっかり持ち、自分の言動に責任を持つ覚悟がなければ」と続けた。

 ただ「まちづくりについてだれでも意見が言える土壌づくりは大切」と、意図については理解を示してくれた。市長とともに議論を進めるためには、それなりの知識も必要だと付け加えた。

 提案編でまちづくりに関わる人の固定化傾向を指摘した市民主役条例推進委員会さばえブランド部会長の齋藤留美さん(56)は、同部会のメンバーにSNSで提案に対する感想を募ってくれた。「家族単位で参加できるといい」「参加したくなるような議題の設定が大切」といった意見が寄せられたというが、やはり強制参加には懐疑的な見方が多かったという。

 実現の可能性について牧野百男市長に尋ねたところ「市民がだれでも気軽にまちづくりに参画できる仕組みとして、市長員制度は一つの手かもしれない」と前向きな答え。ただ、任期の2週間どっぷり市長員を務めるのは市民の負担が大きく難しいとの見解を示した。半年ほどの期間で定期的に集まり話し合うのが現実的で、案件があるときのみ集まる仕組みなら「実現の余地は十分にある」とした。

 これから行政に求められるのは「市民が主役と思える公共にするために、市民の出番を用意すること」とし、「行政と議会がともに市民のまちづくりを支えていくことができれば」と思いをはせる。

 市市民協働課の橋本和久課長も「市民が考えたまちづくりを行政がサポートするのが真の市民協働。『市長がいなくても市民がいる』と言えるまちづくりが理想だ」と説く。欧米では議会が任命した民間人が行政のかじ取りを担う「シティー・マネジャー制」を導入している自治体もあり、市長員制度は決して現実離れした案ではないようだ。

 ■記者はこう見る 実現可能性30%

 近年、行政のスリム化や国会・地方議会の議員数削減を求める声は少なくない。人口減少社会の中で、いかに持続可能で住みよいまちを創造していくかは市民の手に委ねられつつあるのではないか。鯖江市の市民協働のまちづくりは、それを地で行く。だからこそ市長員制度は実現可能だと思った。

 仕事に家庭、地域づくりを両立させるのは今のままでは難しいと思う。政府は目下、「働き方改革」を検討中。住民が地域と真剣に向き合える環境が整うことを願う。

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 「鯖江市編、官民協働へ究極の制度」」概要

 鯖江市民または市内の事業者・学校に通う15歳以上の人を「市長員」に任命し、市長と一緒に施策の審議やまちづくりの提案を行う。裁判員制度のように無作為に選び、任期は2週間。生活者目線を市政に反映させ、地域の課題を広く共有するのが狙い。市民協働のまちづくりを進める鯖江市が、さらなるステップアップを目指し制度化した。議論の内容はインターネット上で公開。若者からお年寄りまでみんなが鯖江市について考え、課題解決へ取り組む土壌が育まれた。(17日付「提案編」より)

【意見募集】

 連載「空想まちづくり」鯖江市編の感想、意見を募集しています。連載は福井新聞ホームページからもご覧になれます。福井新聞鯖江支社=電話0778(53)0234、FAX0778(53)0247、メールはmachidukuri@fukuishimbun.co.jp

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