「常用字解」の英訳版を自費出版したクリストフ・シュミッツさん=東京都港区の書店「ブッククラブ回」

 漢字学の第一人者、故・白川静さん(福井市出身)が編さんした漢字体系入門字典「常用字解」の英訳版が発刊された。親交があったというドイツ出身の白川文字学研究家、クリストフ・シュミッツさん(47)=東京都八王子市=が12年がかりで自費出版。「翻訳には研究も必要で大変な仕事だったが、画期的な白川文字学を西洋に発信できる」と話している。

 七十余年の漢字研究を踏まえ、それまでの定説を覆し中国にもない新しい漢字体系を打ち立てた白川さん。「常用字解」は専門書ではなく、中・高校生以上向けに、漢字の基本構造について分かりやすく解説している。

 シュミッツさんはドイツでの大学生時代、白川さんを紹介する日本の新聞記事が目にとまり「漢字の神髄に出合った」という。漢字体系に興味を持ち白川さんに手紙を送ったり、会いに行ったりした。2002年からは東京大大学院の研究生として日本思想史や日本語をさらに深く学ぶようになった。

 03年、京都市の白川さんの自宅を訪ねた際、偶然、執筆中の「常用字解」のゲラがあった。白川さんから「あとで翻訳したら」とアドバイスされ、04年に翻訳をスタート。図書館に通い、中国の甲骨文字なども研究した。

 白川さんの漢字研究の最大の成果は「口」という字形が目、鼻、口の「くち」ではなく、神への祈りの祝詞(のりと)を入れる器「サイ」であることを明らかにしたこと。シュミッツさんは、この器「サイ」を簡単に英訳することができず、表現に苦労したという。

 当初、訳は「prayer(祈り) vessel(器)」にしていたが、液体を含ませる容器や飲食関係に使う容器の意味もあるため取りやめた。最終的には10年がかりで「covenant(人間と神の約束) receptacle(入れ物)」に行き着いた。

 英訳版「The Keys To The Chinese Characters」は、A4判より少し小さいレターサイズで588ページ。字典の内容すべてを忠実に翻訳しているほか、白川さんの功績や人生も紹介。福井県内の小学校の教材になっていることも披露している。自身の経験を踏まえ、漢字体系の勉強の仕方も掲載している。

 1冊1万584円(税込み)。東京都港区南青山2丁目の書店「ブッククラブ回」=電話03(3403)6177=で取り扱っている。

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