【論説】わが子かわいさからなのだろうが、自らが携わってきた教育行政の根幹を壊す愚挙といわざるを得ない。

 東京地検特捜部に受託収賄の疑いで逮捕された文部科学省科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者。官房長だった昨年5月、東京医科大の関係者から支援事業の対象校に選んでほしいとの依頼を受け、謝礼として今年2月の入学試験で子どもの点数を加算、合格させてもらった疑いが持たれている。

 昨年5月といえば、森友、加計学園問題や防衛省・自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で国会が騒然としていた頃だ。とりわけ、加計学園の獣医学部新設を巡る問題では、「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などと記された文書が見つかり、「加計ありき」の疑惑が噴出した時期にも重なる。文書の出どころは文科省だった。

 文科省を巡っては、その4カ月前、業務と関係の深い民間企業などに再就職する「天下り」問題が発覚。後に加計問題で「行政がねじまげられた」と証言した前川喜平氏が事務次官を引責辞任している。2カ月後の最終報告で違法天下りが62件に上り、累計43人が処分された。佐野容疑者も文書厳重注意の処分を受けている。そんな中で、便宜を図る話を進めていたとするなら、相当の神経の持ち主と言うほかない。

 東京医科大は事業計画を昨年6月までに提出。11月に対象校に選ばれ、1年分の助成金として3500万円の交付を受けたという。ほぼ同じ内容の事業計画で応募した16年度は落選していたとされる。佐野容疑者の働きかけが疑われるところだ。ただ、選定は、学識経験者が当たることになっており、佐野容疑者がどう関与したのか、今後の解明が待たれる。

 一方、大学側はトップが選定を依頼した疑いが浮上している。私立大は少子化で経営環境が厳しさを増す中、国の支援事業はのどから手が出るほど欲しい状況にあるとはいえ、犯罪は許されない。教育機関にあるまじき行為だ。大学同士の競争を促してきた文科省の足場も崩れた格好だ。大学側が佐野容疑者を文科省のパイプ役にしようとした可能性もあるという。天下り問題でも指摘された癒着の構図だ。

 現役生からは「代わりに落ちている人がいるかもしれない」「権力のある親はいいな」といったコメントがあった。公正であるべき入試が犯罪の舞台になったことで学生や受験生の動揺は計り知れない。大学の入試では問題ミスが相次ぎ発覚している。だが、目を光らせるべき文科省がこれでは何の説得力もない。

 安倍晋三首相からは今回の事件に関する発信はない。「行政の長として責任を痛感している」とはもう言えないだろう。相次ぐエリート官僚の不祥事は、内閣人事局が幹部官僚の人事権を一手に握ったことが起因とされる。「安倍1強」のおごり、緩みが官僚にまでまん延したとすれば、首相の責任は限りなく重い。

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