台風7号の影響もあって、きのうは日本列島あまねく雨降りだった。その陰鬱(いんうつ)な景色の中でひときわ目を引く花がある。ほんのりピンク色が美しいネムノキである▼道路や川沿いのあちこちで化粧筆のような花が緑の葉の間からのぞく。雨に煙る花の美しさに江戸の俳聖芭蕉も心を奪われた。「象(きさ)潟(かた)や雨に西施(せいし)がねぶの花」▼奥の細道の道中、芭蕉は当時小島が浮かぶ入り江だった象潟(秋田県)を訪れた。そこで雨にぬれたネムの花を目にし、中国の伝説の美女西施の姿を重ね合わせた▼ネムノキはマメ科の樹木。絹糸みたいに細いピンクの花は雄しべで、確か、英語にシルク・ツリーの別名がある。暗くなると葉を閉じる就眠運動をするため、中国では夫婦円満の木とも呼ばれるとか▼同じ仲間の木にモンキーポッドがある。聞き慣れないかもしれないが、またの名を雨の木(レイン・ツリー)。日本ではCMでおなじみ、「日立の樹」として知られている▼大江健三郎さんは小説「雨の木を聴く女たち」で、樹名の由来を「夜中に驟雨(しゅうう)があると翌日の昼すぎまで茂りから雨を降らせるようだから」と書いた▼どうやら夜に折り畳んだ葉が雨水を保ち、朝になると水滴を樹下に落とすという理屈らしい。台風7号は温帯低気圧になったが、なお大雨や河川増水に警戒が必要という。雨の木の保水力と減災効果に期待する。

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