清掃業務に励む信也さん(仮名)。仕事に就いてから、明るくなったという=5月、福井県内

 採用担当の山本俊一さん(51)は、信也さんと会社近くを散歩しながら、いろいろな話をした。「認知症の人を雇ったことはなかったが、信也さんの受け答えはしっかりしていた。何より『仕事がしたい』という熱意があった」。認知症という理由で社会からはじかれるのは、もったいないとも思った。「(仕事でミスする)リスクは認知症の人に限らず誰にだってある」。上司の理解もあり昨年11月、パート採用を決めた。

 ちょうどフロアに通路が一本しかない現場があった。「これなら作業中に迷うことはない」と、信也さんを担当にした。

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 1人での現場作業。最初の2カ月、山本さんは信也さんの仕事ぶりを緊張しながら見守っていたが「観葉植物の水やりなど、自ら仕事を見つけることがあった。今年2月の大雪のときには、4時間以上かけて現場に行ってくれた。今では一般のパート社員として普通に接している」と信頼を寄せる。

 信也さんとかかわり続けている夏井さんは「仕事に行きだしてから、信也さんは明るくなった。『命を取られるわけじゃない』と病気に対して前向きになった」と話す。

 信也さんは認知症本人と家族の交流会にも、できる限り参加している。「自分がいることで、場の雰囲気が明るくなればと思っている」

 認知症は進行性の病気だ。信也さんは「今日できたことが明日できなくなるかもしれない。いつか、仕事に支障が出るかもしれない」。山本さんにも同じ不安はある。「だけどミスがあれば、一緒に謝りに行こうと思う。信也さんはそう思わせてくれる人。だから採用したんですよ」

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