実家近くで目の当たりにした当時の状況を「地獄絵図だった」と話す布目鈴子さん(右)。隣は夫の輝雄さん=福井県永平寺町松岡吉野の八幡神社

 少年を抱いたおじいさんは立ち上がれない。腰を抜かしたのか膝立ち状態で砂利道をずり歩き、「フミコさんー、フミコさんー」と少年の母の名を叫んでいた。少年の右足は太ももから下が切断されていた。左足もほぼ同じ位置で切れ、皮一枚でかろうじてつながっていた。

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 福井県永平寺町松岡吉野の自宅近くの神社前だった。布目鈴子さん(85)=同町=が目の当たりにしたのは「まさに地獄絵図」。思い出すと今も涙がこぼれる。

 神社では5歳くらいの男の子たちが遊んでいたようだった。ある子は木にしがみつき助かった。少年は石製の鳥居にしがみついたが、上部が割れ、足の上に落ちてきたらしい。辺りの建物は軒並み倒壊。余震も続いていた。

 その夜、近所の人たちは麦畑にむしろを敷き、体を寄せ合って横になった。息も絶え絶えのあの少年もいた。病院にも連れて行けず「そっと頭をなでる(少年の)母親の姿が目に焼き付いている」。ちぎれた足は枕元で、まるでナスのような紫色をしていた。明るくなり、少年が息を引き取っているのが分かった。

  ■  ■  ■

 地震発生時、女学校から帰ってきた布目さんは台所にいた。弁当を一口食べようとした瞬間、床から突き上げるような衝撃に襲われた。

 「天地がひっくり返った?」。地震はとっさに思い浮かばなかったが、玄関から飛び出た。同時に、自宅は反対方向に倒壊。向かいの家は目の前に倒れてきた。二つの建物の間にいたから命拾いしたと、後になって理解できた。

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