他の作品へも大きな影響を与えた松田優作の代表作『探偵物語』

 神奈川県とその周辺を放送対象とするテレビ神奈川、通称tvk。現在同局では、毎週月曜~水曜の夜10時から故・松田優作さんの『探偵物語』(1979年)を放送している。過去には、萩原健一『傷だらけの天使』、舘ひろし・柴田恭兵『あぶない刑事』も放送しており、同地域にお住まいなら、ザッピング中に突如、懐かしい4:3の画角が出現し、思わず手が止まった経験のある方も多いだろう。かつての名作ドラマが、制作した本来のキー局ではなく、ローカル局で放送することはこれまでにもあったが、昨今ではその意味合いが大きく異なってきているようだ。

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■時代劇・韓流ドラマ・刑事ドラマ…需要ある世代に向けたローカル局の編成プログラム

 ローカル局とは、東京キー局(日本テレ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)に属するネットワーク局、そしてそのネットワークに属さない「独立U局」に分類される。独立U局は、TOKYO MXテレビ、テレビ神奈川、テレビ埼玉、チバテレビ、岐阜放送、京都放送など13局が存在。関東近郊の放送局では主に朝9時台や正午前後に、時代劇や韓流ドラマなどを放送。故・萬谷錦之助さんの『鬼平犯科帳』や里見浩太朗さんの『大江戸捜査網』などの名作を編成。高齢者や主婦層向けの編成で支持を得ている。

 tvkは00年代、“UHFのアニメの雄”としてアニメファンからも注目された。だがTOKYO MXがアニメの本数を増やし、その地位が奪い取られるや、『あぶない刑事』、『傷だらけの天使』、『探偵物語』など、主に40代向けラインナップを送る現在の枠を構築していった。SNSでは同世代から「久々に作品が見られる」、「月曜から水曜は外で遊ばない」「ドラマ満足度NO.1とかあるけど、個人的には『あぶ刑事』」など熱いコメントが寄せられている。

■スポンサーへの配慮もキー局ほど“ガチガチ”ではない!?

 さて、ここで疑問が浮かぶ。なぜこれら再放送が元のキー局ではなく、ローカル局なのか? メディア研究家の衣輪晋一氏は「理由の一つとして“コンプライアンス”への配慮」と解説する。

 「一昔前のテレビは、プライム帯でも暴力シーンや喫煙、未成年の飲酒シーン、女性のむき出しのバストなども放送されていました。だが昨今、これに不快感を示す声が増え、放送がためらわれる傾向に。このほか“本当に再放送で視聴率がとれるのか?”や、権利関係、全国放送ゆえ批判にさらされやすいなど諸問題も挙げられます。一方で独立U局は“メインではない”ことから批判されにくい強みがあります。また『放送業界のビジネスモデル研究』分野でも、独立U局の収入源は他より通信販売が断トツで多いとする研究があり、つまりスポンサーにそこまで縛られていない。それゆえ自由で、コンプライアンス的にやや“ユルい”体制が取りやすくなっていると考えられます」(衣輪氏)

■キー局の現状は? かつては隆盛だった再放送ドラマ枠の今…

 現在のキー局の再放送事情についても考えてみよう。今も再放送枠を設ける局はフジテレビとテレビ朝日だ。テレビ朝日は『相棒』、『科捜研の女』など刑事ものやミステリー、早朝の時代劇枠が好評。フジテレビは現在、夕方帯に『コード・ブルー』を放送中だ。これは7月の同映画に向けての宣伝であり、これまでも新ドラマに出演する俳優の直近の過去ドラマを再放送してきた流れがある。

 日本テレビは2003年3月まで、夕方4時台に『あぶない刑事』や『太陽にほえろ』、そして5時台からはアニメ『ルパン三世』などを再放送していた。TBSでは5時から『金八先生』や『ふぞろいの林檎たち』の再放送を観た視聴者も多いだろう。だが日テレは同時間帯を情報番組へと変え、TBSも2009年を境に午前中に再放送していた『金曜日の妻たちへ』などの「三井奥様劇場」枠、夕方5時の再放送ドラマ枠を情報・報道番組へと改編。情報番組や報道バラエティは増加の一途を辿り、現在はバラエティも情報番組的なアプローチのコンテンツが多くなっている。

 情報番組が増加した背景について、「あるキー局関係者に話を聞いたのですが、そもそも情報番組は、“ネタ切れ”のときに、安価にそこそこ数字がとれる“逃げ”の優良コンテンツとして重宝されていた。だが80・90年代のテレビ黄金期を経て、バラエティもドラマもネタが枯渇。もちろん再放送ドラマもネタ切れし、その結果、“逃げ”だったコンテンツがメインとなっているのが現状のようです」(衣輪氏)

■ローカル局が“意図せず”担うようになった「名作を後世に残す」役割

 話を再放送に戻そう。再放送枠にはある“意義”が存在している。それは「名作を後世に語り継ぐ」ことだ。

 例えば『機動戦士ガンダム』は再放送時にブレイクし、後世に受け継がれた。ジブリ作品の再度に渡る放送も、しっかり今の子どもたちに引き継がれている。だが先述した“コンプライアンス”への配慮や権利関係、「過去のものでなく新たな番組を作って世に送りたい」というテレビ局の“矜持”もあり、「往年の名作」の再放送を見ることが今では皆無といってよい。そんな中で「tvkなどローカル局の担う役割は大きい」と衣輪氏。

 「tvkで放送する『あぶ刑事』などのターゲットは40代。この層は団塊ジュニアであり、団塊に次いで人数が多く、しかも“テレビの申し子”です。よる10時は彼らが帰宅するだろう時間でライフスタイルに合っており、ビジネスモデルとしても成立。これには“よい副作用”があり、関東圏であればチャンネルを回せば無料で見られるため、若い世代に往年の名作群を目にするきっかけを与えてくれているのです。こうして往年の名作が、少しずつでも新たな世代へ引き継がれていく。その“意義”は、お金を払わないと見られない動画配信サービスとはまた違った意味合いがあります」(同氏)

 コンプライアンスに配慮した番組作りでは、当然のこと表現の自由が制限され、“どこかで見た”設定や物語の画ばかり増えてしまう。それが加速して見える昨今、ローカル局の再放送は“潔癖な時代”ともいえる現在へのアンチテーゼであり、テレビへの“憧れ”や“羨望”の感情をもう一度呼び覚まさせてくれる。“未来を創る”ことと“過去を語り伝える”ことは決して反意語ではないのだ。

(文/西島享)

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