【越山若水】懐かしさを誘う一句がある。「煉炭(れんたん)の穴より炎あがりけり 鳥居三太」。子ども時分、家人を驚かせてやろうと掘りごたつに隠れて目にしたのが、この光景だった▼練炭にはレンコン状にたくさんの穴が開いている。それらの穴から短いオレンジ色の炎が上がるさまはきれいで、見飽きなかった。ぬくぬくと暖かくもあった▼練炭は冬の季語である。それほどに寒い季節に重宝した燃料が、恐ろしい凶器として使われたのか。堺市で練炭自殺を装って弟を殺害したとして、姉が逮捕された▼睡眠薬で眠らせトイレ内で練炭を燃やす手口だという。掘りごたつほど狭くなくても、小さな個室である。一酸化炭素中毒で死に至らせるのに、確かにそう長時間はかからない▼その後の調べで、弟の遺書を偽造した形跡が容疑者のパソコンにあったことが分かったという。おぞましいことに、両親も容疑者に睡眠薬か何かを盛られた可能性もあるらしい▼本人は容疑を否認している。知人らの評判は悪くないとも聞く。さらに事件後には弟の親族を中傷する文書が出回るなどしていて、何だかミステリー小説じみた様相だ▼練炭は煮炊きにも使われ、昔は練炭火鉢で煮豆の鍋がおいしそうな湯気を上げていたりした。そのオレンジの炎は家族の温かさの象徴だったのだが、この事件では冷たく青い憎悪の炎が上がっているかに見える。

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