【論説】北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が、先の米朝首脳会談で拉致問題を巡り「安倍晋三首相と会う可能性がある。オープンだ」と述べたという。政府は、日朝会談に前向きな考えを示したと受け止め、9月にロシア・ウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムでの日朝首脳会談実現に向け、調整に入る方針を固めた。

 金氏の発言が事実なら大きな転機に違いない。だが、首相はトランプ大統領との電話会談のやりとりを「詳細は言えない」として明確にしていない。示したのは、金氏が拉致問題を「解決済み」とは言及しなかったということだけだ。解決には国民理解が欠かせない。米側の報告をきっちり説明するのが筋ではないか。

 北朝鮮の真意を見極めた上で9月といわず、あらゆるチャンネルを駆使するなど戦略を練り、膠着(こうちゃく)状態にある拉致問題の打開につなげるべきだ。

 トランプ氏は会見で拉致問題は「安倍首相の最重要事項であり、確かに取り上げた」としたが、北朝鮮が「問題に取り組むだろう」と述べただけで、どう議論されたかは示さなかった。

 北朝鮮メディアは米朝会談を報じる中で、拉致問題には触れなかった。米朝の共同声明では人権問題に関し、朝鮮戦争の戦没米兵の遺骨収集などが盛り込まれただけで、拉致問題は扱われなかった。米国以外は眼中にない北朝鮮らしい対応ともいえよう。

 北朝鮮は拉致問題を「解決済み」と主張してきた。米国追従、圧力一辺倒に傾いてきた日本に対して、不信感があることは否めない。首相は14日の拉致被害者家族会のメンバーとの面会で「日本の問題として北朝鮮と向き合い解決する」と述べた。日朝間の隔たり、確執をどう乗り越えていくか。金氏が「オープンだ」と述べたとされる、この機会を前向きに捉え交渉を前進させる以外にない。

 政府は、モンゴルで開催中の国際会議に外務省幹部を派遣し北朝鮮側と接触を図ったとされる。8月にシンガポールで開催される国際会議では、外相会談も模索するという。9月のフォーラムでの首脳会談実現につなげる努力を求めたい。

 非核化交渉を巡り、ポンペオ米国務長官は2021年1月のトランプ氏の1期目任期内にほぼ達成したいとの考えを明らかにした。そのためには米朝協議を加速化させるだろう。拉致交渉の足がかりとする手もあるのではないか。

 トランプ氏は北朝鮮の経済支援に関し「韓国と日本が大いに助けてくれる」と述べた。日朝には02年の平壌宣言というベースがある。過去の植民地支配で与えた損害や苦痛に「反省とおわび」を表明。その上で拉致や核・ミサイル問題などを包括的に解決、国交正常化後に経済協力を実施するとの内容だ。

 制裁と支援のバランスをどう図っていくか、難しさもあるが、北朝鮮も日本の支援を無視はできないはずだ。「自らの政権で完全に解決する」と強調してきた首相の覚悟が問われる。

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