【越山若水】朝はどしゃ降り、午後になるとカラリと晴れて…ということは福井の梅雨にはそれほどない。なのに、この時期になると優しい気持ちとともに思いだす随筆がある▼詩人の山之口貘(ばく)の「雨あがり」。お子さんのいる家庭なら経験があるだろう。学校に着ていった合羽(かっぱ)を、わが子が忘れて帰ってきた―。そんな出来事を巡る話▼まな娘は母に叱(しか)られたのに懲りたか、次はちゃんと持ち帰った。母親が「よく合羽わすれなかったわねえ。かんしんかんしん」と褒めると、にっこり笑って言った▼「でも、ランドセルわすれてきちゃったのよ」。片方の手には草履袋と籠、もう一方の手で赤い合羽を胸に抱いている。詩人は思う。なるほど、この小さな体では無理もない―▼山之口は明治後期の生まれ。描かれた情景を大正から昭和にかけてのものと考えれば同時期の童謡も浮かぶ。♫あめあめ、ふれふれ…と歌いだす北原白秋作詞の「あめふり」だ▼随筆は父の立場から、こちらは子どもの目で、と視点は違ってもまるで対をなすように母子の情愛を描く。ほっとすると言えば懐古趣味だろうか▼アジサイが咲いている。タチアオイも中段から上段へとつぼみを積み上げている。ともに梅雨を鮮やかに彩る花も、このところ続く曇天の下ではいまひとつ色合いがさえない。どしゃ降りでもすぐに晴れるなら、あめあめ、ふれふれ。

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