【論説】東海道新幹線の3人殺傷事件は、3年前の放火事件を機に安全策が強化されていた中で起きた。多くの乗客を高頻度のダイヤで運ぶ高速列車。高い利便性の一方で、安全対策には困難さがあることを浮き彫りにした。今回の事件の検証を早急に進め、再発を防がなければならない。

 容疑者は「誰でもよかった」と供述したという。この種の犯罪はどんな場所でも起こり得るが、新幹線などの車両が現場となれば逃げ場のない「密室」になる。北陸線なども例外でない。東京五輪・パラリンピックを2年後に控えることからも、公共交通機関の安全確保が緊急課題である。

 2015年6月、男が焼身自殺を図り、居合わせた乗客も死亡した事件を受け、JR東海は客室の防犯カメラ設置、乗務員の見回り強化など「見せる防犯」に取り組んできた。だがこれらの抑止効果は、犯人が強固な殺意を持っていたり、犯行後の逃走を重視していなかったりするケースでは決定打とならない。

 今回の事件後、手荷物検査を求める声がにわかに上がっており、国土交通省も可能性を検討するという。実現すれば一定の効果は見込めるが、ハードルは高い。新幹線は東京―新大阪間で1日平均365本が走り、約45万人が利用する。検査を導入すれば利便性は著しく低下する。検査スペース確保も問題になる。

 より効率的な検査システムの開発が待たれるが、当面の警備強化は警察力などのマンパワーに頼らざるを得ないだろう。警察庁は10日付で、全国の警察本部に列車や駅での警戒を強めるよう通達した。警察官が車両に乗り込む「警乗」も強化する。国交省も警備徹底を鉄道各社に通知した。

 事件では、座席シートを外して盾にするよう乗務員が乗客に促したとの証言もある。こうした知識を広めることも、社会全体の対応として必要だろう。

 ただ、容疑者は2人掛け席の通路側に座り、窓側の右隣と、通路をはさんだ左隣の女性2人を突然襲ったという。死亡した男性被害者が止めに入るまで数秒だった。仮に警察官が乗り合わせていても、取り押さえるのは間に合わない。シートを使っての防御もとっさには難しい。犯罪発生時に居合わせてしまった場合、直後の時間帯をどう生き抜くか。最悪の事態を避ける行動を、一人一人が考えておくことが極めて大事だ。

 注目したいのは、今回の被害女性2人は「すぐに逃げ出した」とされることである。2人はけがを負ったが、犯人から素早く遠ざかることを瞬時に選択、男性の助けもあって命が救われた。容疑者や被害者、その場にいた人たちの行動について専門家の検証が行われ、犠牲になった男性に報いるためにも教訓が引き出されることを望みたい。

 容疑者が「誰でもよかった」と言う犯罪は後を絶たない。それは、誰もが被害者になり得ることを意味している。社会も個人も、いざというときの備え・心構えが不可欠になっている。

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