【論説】「リトルロケットマン」「老いぼれ」などと言葉の戦争を繰り広げ、一触即発の状態にあった昨年を思えば、大きな関係改善といえるだろう。ただ、非核化やミサイル放棄などの難題解決に向けては決意表明だけで何ら道筋らしいものは示されず、むしろ会談のための会談だったとの印象は拭えない。

 トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談。双方が会談開催、共同声明合意への努力をたたえ合う姿に国際社会も安堵(あんど)し、歓迎の意を表した。一方で、声明からは米政権が最重要視してきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の原則が抜け落ちるなど、トランプ氏が評した「偉業」には程遠い内容と言わざるを得ない。

 安倍晋三首相が最重要課題に掲げ、再三、会談で取り上げるよう促した日本人拉致問題について、トランプ氏は「提起した」としたが会見で詳細には言及しなかった。首相は先の日米会談で「最終的には日朝首脳会談による解決しかない」ことを強調したが、足がかりとなる発言が金氏からあったのか、早急に明らかにすべきだ。その上で日本独自に日朝会談の糸口を探る必要がある。

 米国側は、会談前日にポンペオ国務長官がCVIDを北朝鮮に求めるとしていた。それには、保有核兵器の申告や各関連施設の査察受け入れなど具体的な行動への確約が欠かせない。だが、声明には「朝鮮半島の完全非核化に努力する」と明示されただけだった。あくまで「段階的な非核化」でその都度見返りがほしい北朝鮮に押し切られたとみるべきだろう。

 北朝鮮が最も望んでいるとする「体制の保証」に関しては、当初、米国が朝鮮戦争の「終結宣言」に言及するとみられたが、「安全を保証する」との文言にとどまった。トランプ氏は会見で、終結宣言も今後の協議に委ねられる見通しだとしたが、結ばれれば、北朝鮮は在韓米軍の撤退を求めてくる可能性も否定できず、米側が言質を与えなかったとの見方もできる。

 トランプ氏が今回の会談を非核化プロセスの「始まり」と位置付けたように、スタートラインに立っただけの状況でしかなく、火種の多くが温存されたままとなった。トランプ氏が、金氏と「特別な絆を築いた」とするならば、再度の首脳会談や高官級会談を早期に開催し、非核化などの具体的道筋を詰めるべきだ。

 完全な非核化は、たやすい道のりではない。北朝鮮との交渉で「過去の失敗は繰り返さない」と強調してきたトランプ氏だが、共同声明を過大に評価する姿からは、二の舞いを危ぶむ声も少なくない。非核化の実現に向けては、日本や韓国、中国などの関係国が一致して声明の履行を支える仕組みも必要だ。

 とりわけ日本は拉致問題解決のためにも、朝鮮半島の平和維持に積極的に関わる姿勢を示さなければならない。外交力が今こそ問われている。

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