福井県敦賀市東部の集落にあった兎と波の文様が描かれた棟止瓦(大門和さん撮影)

 福井県嶺北地方を中心とした北陸一帯には、兎(うさぎ)や桃、菊をモチーフにしたユニークな棟止瓦(むなどめがわら)の文化が広がっている—。15年ほど前に偶然、福井県大野市で見かけた漫画のような文様の瓦に興味を持った福井市の医師、大門和さん(64)が、同様の瓦を探し求めて県内外を巡り歩き、分布状況をリポートにまとめた。現在は古い家屋などにしか見られないことから、「こうした面白い文化があることを多くの人に知ってもらい、保存につながっていけば」と話している。

 大門さんが瓦を調べ始めたのは2000年ごろ、大野城近くにある武家屋敷を訪れた際、ガイドブックに「火災よけの文様を描いた瓦がある」との説明を目にしたのがきっかけ。見ると、軒の高さの棟の端に、幅30センチ程度の薄い瓦があり、中央にはかわいらしい兎の顔と波の模様が描かれていた。興味を抱いた大門さんは以来、時間を見つけてはカメラを手に県内外の民家などを探し歩いた。

 その結果、同様の瓦は、東は富山県の東の県境、西は福井県敦賀市、北は能登半島の先端、南は岐阜県の関ケ原付近まで広がっており、兎と波をモチーフにした「なみうさぎ」のほか、波を組み合わせた「桃」「宝珠」「菊」などの種類があることを突き止めた。

 嶺北を中心とした地域には越前鬼瓦の文化があることから、関連をインターネットなどで調べたが詳しい情報はなかった。福井市の県立歴史博物館に写真などを持ち込んだところ、棟の端に鬼瓦を使わない場合に用い、建物への雨の侵入を防ぐ「棟止瓦」ということが分かった。

 大門さんが各地で撮影した瓦は約400点に上り、地域や集落ごとにまとめた。「なみうさぎ」は、陶器などにも用いられるポピュラーな図柄で、全域に広く分布。「桃」は県内でよく見られるが富山県ではあまり見られなくなるという。「菊」もほぼ全域に広がっていた。

 大門さんは、江戸から明治期にかけて作られた福井県独自の「越前赤瓦」との関係に注目し「同じ職人が製造し同様の経路で広まっていったのではないか」と推測する。ただ、越前海岸の集落で10年前には存在したこうした瓦は道路整備に伴い、道に面する民家の瓦は新しいものに取り換えられているなど、赤瓦と同様に減少している。

 鬼瓦に詳しい県埋蔵文化財調査センターの中原義史主任は、石川や富山は江戸時代後半に越前瓦の職人が技術を伝えた地域であり、大門さんが調査した分布と一部を除いて一致すると指摘。その上で「棟止瓦に着目した分布調査は恐らくこれまでない。こうしたタイプの棟止瓦は越前の職人がルーツとも考えられ、越前瓦全体の産業の歴史を知る一つの手がかりになるのではないか」と期待を込めた。

 大門さんは「まだ踏み込んだ考証が不足しており、今後は県内の鬼瓦職人などにも話を聞いてみたい」と話している。

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