空気を読めない。指示のとおりに動けない。いつまでたっても仕事を覚えない。そんなダメ社員、あなたの会社にいませんか。もしかしたら、その「ダメ社員」は、大きな能力を秘めた「グレーゾーンアスペルガー」という天才かもしれません。

 『隠れアスペルガーという才能』(KKベストセラーズ)などの著書を出版しており、発達障害の専門家である吉濱ツトム氏は「多くの上司は本来優秀である部下の能力を引き出せず、ダメ社員にしてしまっている」と警鐘を鳴らします。

■グレーゾーンの「隠れアスペルガー」

 「アスペルガー症候群」とは「自閉症スペクトラム」とも言われます。強すぎる劣等感を抱え、「他人とコミュニケーションができない」「空気を読めない」「協調性が欠落している」など、さまざまな「生きづらさ」を抱えています。

 一方で、アスペルガー症候群にはきちんと診断がつくいわば「真性アスペルガー」のほかに、グレーゾーンに位置する「隠れアスペルガー」の人たちが大勢います。彼らは社会生活には一定の順応性があるため会社勤務などサラリーマンとして就職していることが多いのですが、どんなに努力をしても周囲に迷惑をかけたり、上司にとってはトラブルメーカーであったり、なかなかに厄介な存在として扱われる傾向があります。

 ただし、本人は悪意があるわけではなく、本当に気づかないケースが少なくありません。このグレーゾーンアスペルガーは、実は才能あふれるすばらしい人材であることが多く、枠組みがないためにただマイナス面だけが目立ってしまって、周囲の理解が追いついていないという面があります。

 グレーゾーンアスペルガーは適切な環境さえ整えれば、天才とも言えるほどの大きな力を発揮できるのに、みすみすその才能を殺してしまっているケースが多い。これは、上司にとっても部下本人にとっても非常に残念なことです。

 実は私自身強いアスペルガーでした。なかなか社会になじめず、ニートやホームレスも経験したことがあります。その後、一念発起し、あらゆる文献を読み漁って効果のありそうな手法を片っ端から試していきました。ローカーボ食事法、分子整合栄養医学、行動応用分析、認知行動療法、コミュニケーションロールプレイング、運動療法、自律訓練法など、あらゆる手法を尽くし、7年かけて社会復帰。その後は、自身が確立した発達障害改善法を伝え、発達障害の専門カウンセラーとして活動しています。

 

 グレーゾーンアスペルガーとは、医療機関で診断がおりるほどの強い症状をもたない軽度のアスペルガーのことです。診断のつくアスペルガーに比べると症状はまばらで軽く、人によってまったく逆の傾向を見せることもあり、発見と対応を困難なものにしています。空気が読めないグレーゾーンアスペルガーもいれば、逆に空気を読みすぎて疲れきってしまうグレーゾーンアスペルガーもいます。

 グレーゾーンアスペルガーは一人ひとりの症状を見極め、丁寧に対応することが求められます。非常にデリケートな存在ではありますが、その実、適切な環境を与えるとほかにない優秀な人材へと変貌します。

■グレーゾーンアスペルガーであるOさんの面白い経歴

 たとえば、現在、2つの会社を経営する40歳のOさんは面白い経歴の持ち主です。以前はカーディーラーにセールスマンとして勤務していましたが、新入社員のころは典型的なダメ社員。協調性がなく、簡単な事務作業にもミスばかり。連日上司に呼び出されては叱責されていました。

 これに対してOさんは逆ギレし、深夜まで酒を飲んでは翌朝遅刻してくる始末。揚げ句の果てには、上司がいかに無能かをまとめたプレゼン資料を本社に送りつけ、役員まで巻き込んだ大騒動を起こします。結局Oさんはクビになってしまうが、その上司も閑職に回され、出世コースから大きく道を外す結果となりました。

 その後、別のカーディーラーに再就職したOさんは、まったく違う実績を残します。Oさんの特徴をすぐに見抜いた新しい上司は、「君の自由にやっていいよ」とOさんを大きく受け入れます。人が苦手で顧客訪問をしないOさんを周囲のスタッフは非難しましたが、この上司はOさんが手書きの手紙で顧客と信頼関係を築きつつあることを理解し、根気よく見守りました。

 するとOさんは日に日に結果を出していった。上司はOさんに欠落している能力について、周囲のスタッフに理解とフォローを求め、Oさんが力を発揮できる環境を整えた。

 その結果、Oさんはたった1年で事業所のトップセールスマンとなり、自身のセールス手法をまとめた資料が社長に認められ、会社のスタンダードとして採り入れられる。さらには自動車メーカー主催のプレゼン大会において全国1位を獲得。所属する店舗は瞬く間にメーカーや全国の販売店から注目されるベンチマーク店に。この上司は、のちに取締役に出世します。

 Oさんのようなグレーゾーンアスペルガーは、環境さえ整えてあげれば、突出した才能を発揮します。

■「できること」、「できないこと」を書き出す

 グレーゾーンアスペルガーが疑われる部下がいた場合、まず、その部下のできることとできないことを細かく箇条書きにしてみるとよいでしょう。

 ▽電話応対ができるか

 電話応対は無難にできても、電話で話しながらメモを取ることができないというケースも多いものです。そういうときは、専用の電話メモを用意すると良いでしょう。「折り返し電話ください」「またかけます」「___を__セット注文します」など、その部署によくかかってくる電話の内容をあらかじめ印刷しておき、チェックや数字を入れるだけでメモが取れるようにします。

 こうすることで、「2つのことを同時に行うのが苦手」という症状をもつグレーゾーンアスペルガーでも、電話に出ながらメモを取ることができるようになります。複雑な内容の電話のときには、周囲の人が代わってあげるという協力体制がとれると、なお良いでしょう。

 ▽日々のルーティンを問題なくこなせるか

 職場には、毎日決まった作業というものがあります。掃除にはじまり、来客対応、データ入力、日報作成など。誰もが当たり前にできるルーティンをいつまでたっても覚えない場合は、作業マニュアル化を用意するのです。

 グレーゾーンアスペルガーには、耳で聞いた話を覚えるのは苦手ですが、文字を読んでの理解には長けているという人が多い。マニュアルを作るのは大変ながら、いったん作ってしまえば、ずっと使える。今後、新人が配属された際にも、大いに役立ちます。

 ▽「これ、やっといて」と仕事を頼んだとき、期待どおりにやってくれるか

 パターン化された仕事の場合、「これお願いね」と気軽に頼んでしまうかもしれない。しかし、あいまいな指示を出されると、グレーゾーンアスペルガーはどうやっていいのか迷ってしまうことが多い。「この書類を8部コピーしてホチキスで留めて。できたらすぐに第2会議室まで持ってきて」と指示をすれば明確です。

 いつもの会議なのだから言われなくなってわかるだろう、と思うかもしれませんが、はっきり言ってもらわないと、彼らの中で渡された書類と会議がつながりません。もし、あなたの部下が前述したような口頭での指示に弱いタイプであれば、付箋などにメモ書きして指示を出すとより理解しやすくなります。

 ▽できないことを一つひとつ洗い出すことで、対応策も見えてくる

 また、何もかもできないというわけではないことにも、理解が必要です。そして「できない」の裏に、「できる」が潜んでいることも多い。

 たとえば、ほかに優先すべき仕事があるのに、いつまでもデータ入力をやっているという場合。単純作業であっても、集中したらとことんやるタイプだということが考えられます。こういう人材は、研究開発部や品質保証部など、実験や商品テストを繰り返すような部署に向いているかもしれません。

 逆に、単純作業は苦手だけれどクリエイティブな能力を持っているというグレーゾーンアスペルガーもいます。その場合、思い切ってアシスタントを付け、本人がクリエイティブな仕事に集中できる環境を与えることで、一気に能力を発揮するようになることがあります。

■これらはすべて、トライ&エラー

 一つひとつ検証しながら、どれが適切かを見極める必要があります。これは気の長い作業であり、最初は面倒に感じるかもしれません。

 しかし、グレーゾーンアスペルガーがいったん能力を発揮したら、ほかの追随を許しません。また、グレーゾーンアスペルガーは周囲の理解がなかなか得られず、これまでずっとつらい思いをしてきたことが多いため、理解を示してくれた上司には、全力で尽くすケースが多いのです。

 グレーゾーンアスペルガーの症状というのは、実は誰もが持っている性質です。普通の人より程度が大きいから扱いにくい。ただそれだけのことなのです。グレーゾーンアスペルガー用にとった対策は、普通の人にもそのまま使えます。つまり、ダメ社員用の対策が、チーム全体のミス軽減や効率アップに有効なのです。あなたの部署にも、困った部下はいないでしょうか。その部下は、もしかしたら、あなたの運命を左右する天才部下に化けるかもしれません。(吉濱ツトム:発達障害カウンセラー)

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