本屋大賞を受賞しインタビューに答える宮下奈都さん=12日夜、東京・明治記念館

 「作家になろうなんて考えたこともなかった」。2016年本屋大賞を受賞した福井市在住の作家宮下奈都さんが初めて小説を書いたのは2003年、36歳の時。3人目の子どもの妊娠が分かったときだ。

 大学進学で上京し、製菓会社勤務などを経て1998年に結婚した。「男の子を2人育て、もう1人加わったら、自分の時間が全て子どもに取られるような気がして。そうしたら小説を書きたいと、なぜか思った。妊娠中のホルモンの影響としか言いようがないですね」

 その作品「静かな雨」が文學界新人賞の最終候補(結果は佳作)に残ったとき「書くのは大好きだったんだろうと思う。これからも書こう、書いていいんだ」と書く喜びに気付いた。

 本屋大賞受賞作「羊と鋼の森」では、調律師として成長する主人公の姿を愛情深くつづる。それは家族への思いとも重なる。いつも最初の読者として「面白い」と背中を押してくれる夫、エッセーにたびたび登場しては読者を温かな気持ちにさせる子どもたち…。家庭と作家の両立にも「小説に没頭すると、目の前のことが全てどうでもいいような気になってしまうことがある。でもふと家族の存在を思い出すと、無事に日常に戻ってくることができる。日々、私に刺激を与えてくれる家族がいなかったら、私の視点はずいぶん狭く偏ったものになっていただろうと思う」と静かに笑みをたたえる。

 週末には体育館を借りて、一家で2時間、バドミントンに汗を流す。毎日欠かさない階段の上り下りや体幹トレーニングは「10年後も元気で書いていられるように」。

 2000年に郷里の福井に戻り、いったん京都で暮らし05年に福井に根を下ろした。作品には「田舎の紳士服店のモデルの妻」「メロディ・フェア」など福井を舞台にしたものも多い。「福井にいなかったら今とは違った小説を書いていたと思う。福井は豊かな場所。書きたいもの、書くべきものが、たくさんあると、福井にいると感じられる。ここで暮らしてここで死ぬんだろうなと思う。ずっと福井にいます」。

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 宮下奈都さんの「羊と鋼の森」が本屋大賞を受賞したことを記念し、有料電子版「福井新聞D刊」では、宮下さんがこれまで福井新聞に寄稿したエッセーと、福井新聞社発行の月刊誌「fu」に31回にわたって連載しているエッセー「緑の庭の子どもたち」をまとめて掲載している。

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