福井県越前市味真野小に植樹された荘川桜を見上げる宮川久子さん=同市池泉町

 岐阜県奥飛騨のダム建設で水没した集落から移植された同県の天然記念物「荘川桜」の種をもらい受け、約300本の若木を育て上げた女性が福井県越前市にいる。2000年に無償配布した桜は、県内外の多くの人に笑顔を届けている。

 同市の元看護師、宮川久子さん(80)が荘川桜を育てたきっかけは、1998年に同市で開かれたマラソン大会だった。自宅に泊めたランナーから、お礼に約1100個の種が届いた。県総合グリーンセンター(坂井市)に問い合わせ、資料を取り寄せて、手探りで自宅のプランターで育て始めた。

 家族総出で種をまき、水をやった。小さな芽を見つけたときは喜びのあまり、家族を呼び集めた。自宅裏の畑に移植し、肥料をやり、下草を刈って世話を続けた。長年、看護師として人の命を見つめていた宮川さん。「枝ぶりが1本1本違って、ふぞろいのようでも助け合って育つ桜の命を感じました」。約70坪の畑は2メートルを超える若木でいっぱいになった。

 2000年4月の同市の環境イベントで若木を配布したときは「手塩にかけた娘を嫁に出す気持ちでした」。約200本を、丹南を中心に奥越や嶺南の人にも手渡した。数年後に「花が咲いた」と便りが届き始めた。知人に頼まれて、瀬戸内海の島まで運び、戦没者供養にと植えたこともある。02年には県日ロ親善協会の訪問団と一緒にロシアのウラジオストクで植樹した。

 小さな手で一緒に種をまいた孫娘たちは大学生になった。着物姿の写真を眺めながら、同じように美しく成長したであろう桜を思う。「桜を見てけんかする人はいない。どこも愛情に満ちた場所になっているはずです」

関連記事
あわせて読みたい