猟銃を携えて山に入り、獣の気配をうかがう

 濃紺のパンツスーツを着こなし、茶髪のショートヘアにピアスにまつげエクステ。年配の議員が居並ぶ議場にあって、児玉千明(27)=福井県高浜町=のルックスが際立つ。一般質問に立ち、背筋を伸ばして理事者を見据え、獣害対策や町の広報戦略をただす姿には1年生議員の初々しさも漂う。

 ファッションをたしなめる人もいるとか。「『あなた議員でしょ』って。でも、いつもの私でいたい」。議場から出ると緊張がほぐれたのか、屈託のない笑顔を見せた。

 昨年4月の町議選に初当選し、同町議会史上最年少の議員となった児玉は、美容師であり、狩猟免許を持つ“狩りガール”でもある。とりわけ議員と猟師には共通点を感じるという。「『なろうと思えば誰でもなれる』ということ。なのに『ハードルが高い世界』と思われていること」

 ▽山が呼んでいる

 高浜生まれだが、父親の転勤で幼いころから大阪、名古屋、兵庫を転々とした。中学生のとき高浜に戻ったが「娯楽のない田舎が嫌で」京都の大学に進学。でも2年で中退し「自由な生活を楽しんだ」。

 そんな孫を見かねたのか、美容師の祖母の勧めで美容師免許を取ったのが22歳。大阪の美容室で働き始めた。頑張った分だけ腕が上がる世界。やりがいはあったが、仕事場と一人暮らしのアパートを往復するだけの日々。「コンクリートジャングルの中の暮らしに疲れちゃった」

 ある日、友人の引っ越しを手伝っていたら「無性に帰りたくなった。高浜の山が『帰って来い』って言っているようで」。子どものころ、里帰りのたびに幼なじみと遊んだ山が恋しくなった。1カ月後にUターン。2013年、25歳の秋だった。

 ▽本気なんです

 実家に戻って間もなく、狩りガールの活躍を伝えるテレビを偶然見た。嶺南の女性猟師も出ていた。「女でもなれるんだ」。猟師の高齢化や担い手不足、シカやイノシシによる農林業被害も知った。そういえば幼いころ猟師は身近な存在だった。山で遊んだ幼なじみの父親が猟師で、檻(おり)にかかったイノシシを見せてもらったこともある。

 「どうやったら猟師になれるの? 猟師に会ってみたい」。地元で開かれた狩猟講習会に参加。年配の男性たちに交じり「髪を緑色に染めた私はめっちゃ浮いてた」。掛けられた言葉は「冷やかしに来たんか」。「本気なんです。手続き教えてください」

 猛勉強をして銃猟とわな猟の免許を取得。ベテランの猟に同行して場数を踏み、銃で仕留めて解体して食べるまでの一通りは経験した。獣害対策の駆除目的でも山に入る。「命の重みを実感するし、獣害に悩む農家の役に立てる。スリルがあって奥深い」

 ▽じゃあ私やる

 朝早く狩りをして、午前10時から実家の美容室で働く生活は張りがあった。娯楽がないのが嫌でいったんは都会に出たけれど、音楽イベントの企画など「娯楽をつくれる年代になった」から退屈しない。そんな日々に「政治」というキーワードはなかった。

 転機は思いがけず訪れた。三つ年上の兄や友人と雑談をしていたら、兄が数カ月後に迫った町議選を話題にした。「このままじゃ無投票になってしまう」。選挙活動を手伝った経験のある兄は、政治に少なからず関心があった。「出てみなよ」。水を向けられ戸惑ったけれど「じゃあ私やる」という言葉が出た。「ノリでしたね」

 ベテラン議員が居並ぶ議場のイメージから「45歳ぐらいかな」と思っていた被選挙権が25歳以上と知ったことも大きい。「なんだ、誰でも出られるじゃん。だったら若い議員がいないのはおかしくない? 若い人の声を届ける人がいないのはおかしいよ」

 「全力で助けて」。その声に友達やイベント仲間ら十数人が応え、選挙スタッフを買って出る。定数14人に対し15人が出馬した少数激戦で4位当選をもぎ取った。

 まだ議員1年生。至らないところもある。議場に入る前、役場の課長から「シャツが出てるよ」と身だしなみを注意された。フェイスブックで議員活動を報告しているが、一部の町民から「年寄りには伝わらん。紙に印刷してもらわんと」の声。一方で手応えも感じる。原発や人口減の問題に関心がなさそうな同世代から「千明の話なら聞くよ」と言ってもらえた。

 「こんな私でも、なろうと思えば議員になれた。狩猟だってそう。私の存在が政治や狩猟へのハードルを下げることにつながるといいな」。茶髪にピアスにまつげエクステ。負けん気が強くて、人懐こくて少しおちゃめ。普段はたばこも吸う。「身近に感じてほしい」から、ファッションも性格も「いつも通りの私でいたい」。(敬称略)

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