道がない山野を爆竹を鳴らしながら進む勢子=福井市東天田町

 「パン、パン、パン」。爆竹の音が山中にこだまする。「そっちへ逃げたはずや」。ベテランハンターが無線で仲間に伝える。だが、いくら待っても銃声は響かない。「獣も賢いもんだ」と苦笑い。増えすぎたニホンジカやイノシシが、県内でも農林業に被害を及ぼしている。昨年12月中旬に福井市で行われた巻き狩りに同行し、人と獣がせめぎ合う現場を見た。

 巻き狩りは、多くの狩猟者で獲物を取り囲み、勢子(せこ)と呼ばれる追い込み役が囲いを縮めながら追いつめ、山ぎわで待ち構える射手が仕留める伝統的な猟法だ。この日は同市東天田町の山中で行われ、午前8時に県猟友会高志支部の会員12人が集まった。

 勢子を率いる同市有害鳥獣捕獲隊長の黒川光行さん(74)に同行をお願いすると、「別にええけど、ついてこれるかな」。黒川さんは事前に調べた山の状況や獣がいる場所を伝え、勢子が進む方向と射手の位置をてきぱきと指示した。普段は4、5人で巻き狩りを行っている。「お互いの技量が分かっていて、意思も通じやすいからな」。多人数になるほど誤射などの事故が起こりやすい。何度も注意を促した。

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 巻き狩りは本来、雪が積もった時が効果的だ。ニホンジカやイノシシが目立ち、逃げた足跡を追いやすいからだ。この日は所々に雪がうっすらと残る程度だったが、道がない山林の斜面はずるずると滑る。標高200〜300メートルの尾根をすいすい進む黒川さんらの後ろで、記者は何度も足を取られ、地面に手をついた。すぐに息が上がった。

 「ちょっと前までシカが休んでいた跡や」。副隊長の小林信行さん(66)が指さした場所は、下草が凹状に倒れていた。獣が通った茂みの細い筋、下草が食べられて全くない場所、皮を剥がれて白い地肌がむき出しになった木があちこちに点在していた。

 「獣を爆竹で脅かしても、射手がいる方まで逃げず、人間が通り過ぎるのを待って元の場所に戻るんや」と小林さん。いてつく寒さの中、汗だくになって2時間ほど山中を歩き回ったが、一度も銃声は聞けなかった。周囲は霧が立ちこめ、麓の様子もよく見えない。尾根は複雑に入り組み、ベテランでも道に迷う時がある。この日もやむを得ず予定と違うルートを探し、林の中を下山した。

 他の勢子や射手と合流すると、「ほんの2、3メートル先にイノシシがいた。銃を持っていれば」と悔しがる人や、ニホンジカの甲高い鳴き声を聞いたという人がいた。“勝負”は紙一重だ。巻き狩りでは仕留められなかったが、小林さんが仕掛けたくくりわなにニホンジカが掛かっていた。

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 小林さんは「福井市内ではこの3、4年でニホンジカは爆発的に増えた。イノシシと違って利用価値がなかったから、以前は見ても捕らなかった」と話す。捕獲をさらに増やすには、ジビエ(獣肉)の利用拡大も不可欠だ。

 猟友会では若手の北和展さん(44)は、同市内で料理店を営んでいる。自分で捕まえたり、先輩からもらったりしたイノシシやニホンジカの料理を店で出している。「獣の肉は臭いというイメージがあるが、その場で血抜きしたものは新鮮で気にならない。お客さんにも喜ばれますよ」

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