患者らが見守る中、ガラスの壁面にステンドグラス風のアートを作り上げていく金沢美工大の学生=8月、石川県の金沢市立病院

 病院をアートの力で安らぎある空間に変える「ホスピタリティー・アート・プロジェクト」に、石川県の金沢市立病院が取り組んでいる。同じ市立の金沢美術工芸大と連携し、学生と患者が一緒にステンドグラス壁画を描いたり、待合室を市民ギャラリーに転換するなどユニークな活動に全国から注目が集まっている。プロジェクトを率いる福井県鯖江市出身の高田重男院長(66)は「最近の病院は医療の高度化とともに、病気自体に目が行きがちで、人に目が向かない傾向にある。もっと安全、安心で味わいある生活空間でありたい」と新たな病院づくりへ意欲を燃やす。

■待合室が一夜で…

 10月9日。面会時間も終わりに近づく夜8時過ぎ。1階ホールで白衣の医師、放射線技師、看護師、それに金沢美工大の教授、学生ら40人ほどが動き回る。縦33メートル、横10メートルの待合室は全ての長いすが除かれ、会計や案内の窓口は仕切りパネルで隠された。

 そのパネルに油絵や水彩画、書などを丁寧につり下げていく。患者や市民から寄せられた作品は150点。同大の三浦賢治教授(51)が作品の配置場所を細かく指示し、待合室は数時間でギャラリーに生まれ変わった。

 「病院が美術館になる日」と題した催しは4年目。10日から3連休限りの展示だったが、延べ千人以上の市民が訪れた。看護師の中町麻紀子さん(52)は「患者さんも楽しみにしている。最初は『院長、何を考えているの』って感じだったけど、今は必要なことだと分かり、学園祭のノリで参加してます」と笑う。

■学生の学びにプラス

 このほかトイレ、洗面所を美大生がデザインする「水回りプロジェクト」、病院での使用を前提に学生が試作する「待ち時間を豊かにする椅子」、「ステンドグラス・ワークショプ」など8年間に柱となる活動がいくつも生まれた。「ホスピタリティー」は英語で「もてなし」の意味で、ホスピタル(病院)も同じラテン語を語源に持つ。各活動に共通する理念は、患者や来院者へのおもてなしという。

 学生にとってもプラス面はある。8月末にステンドグラスのワークショップに参加した3年の大野三結(みゆ)さん(23)は「大学では絵なり彫刻なり作品を作るとき、1人で考える場面が多い。でも病院に足を運び、患者や療養する人の心のケアまで考えて作品に仕上げることはまた違う学びがある」。患者らとのコミュニケーションを通じ、アートが社会で必要とされる場面は何か—を考えるという。

■医芸連携が人材育てる

 超高齢化時代を迎え、病院には高い治療力だけでなく、介護や精神面のケア、療養など命と向き合う場面が多く求められる。高田院長は「アートやデザインの役割はますます大きくなる」とみる。

 さらに同病院での医芸連携顧問を務める同大の横川善正名誉教授(66)は「将来的には病院にもアート・コーディネーターという専門職が必要」と指摘。「医療技術ばかりが注目されがちな病院が、アートやデザインを通してより人間的な空間になる。気付きや共鳴、表現など総合的なコミュニケーション能力を持った人材を、美術教育と医療教育が手を結んで育ていくカリキュラムが要る」と話し、ホスピタリティー・アートを「新しい文化分野や領域への突破口にしたい」と強調する。

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