地域熱供給に活用している木質バイオマスボイラーを紹介するハンス・ライヒトさん=オーストリア・ヒツェンドルフ村

 オーストリア第2の都市グラーツから車で西へ約30分、高原に住宅が点在するヒツェンドルフ村は人口6700人。木材による熱エネルギーを給湯や暖房に活用する「地域熱供給」が林家主導で拡大した典型的な地域だ。森林を所有する地元の林家40人で2005年に組合を結成。主にトウヒ(エゾマツの一種)などの間伐材をチップ化し、ボイラー2基から公共施設を含む45軒に熱エネルギーを供給している。

 この村も以前は他の地域と同様に、まきストーブや暖炉が主流だった。「いきなり大きな事業は難しい。まずは小さく始め、みんなが得をすることを証明する必要があった」と組合理事長のハンス・ライヒトさんは振り返る。

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 ライヒトさんは組合結成に先立つ03年、ほかの林家2人との出資によって最初の熱供給事業に着手した。新築の2階建て4棟の集合住宅を対象に、木質バイオマス用の小型ボイラーを設置し、燃料となる木材チップは3人が交代で用意した。初期投資の30%に対して公的補助金があり、残りは林家の投資と消費者からの加入負担金で賄った。

 集合住宅に入る15世帯は、ボイラーで熱した温水を熱交換器を通じて暖房に使い、使用熱量から算出した使用料と基本料金を支払う。新築時から入居している医師のハイモ・ピルコさんによると、1カ月当たりの暖房代は最も高い真冬で300ユーロ。日本円で約4万円になるが、「家の広さや灯油の価格を考えれば割安感がある」と言う。

 木材チップを自ら管理し、利益を得たライヒトさんらの取り組みは、地元の林家に知れ渡った。一緒に事業をやりたいという希望者が集まり、組合の結成につながった。ライヒトさんは「地域熱供給はもうかると、みんなが気付いて大きな枠組みをつくることができたんだ」と胸を張った。

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 木質バイオマス利用を推進するオーストリアでは、林家が規模に応じて組合や有限会社をつくる民間プロジェクトが2千カ所を超える。いずれも事業の持続には、燃料の木材チップを安定して調達することが欠かせない。

 ホテルを含む13軒を対象に、小規模熱供給を行っているグラーツ郊外のブランドラッケン集落では10年前、組合をつくる際に投資額を450分割して1口720ユーロで売り出した。その結果、林家50人が出資。林家は出資によって木材を売る権利を得るほか、投資口数が多い人ほど買い取り単価が高くなるように設定し、安定供給を促した。

 同じくグラーツ郊外のパッサイル村では、林家50人が出資した有限会社が全世帯の8割に当たる230軒に、中規模の地域熱供給を行っている。当初は地元の家具メーカーから出る木くずが燃料の7割で、周辺山林からの間伐材は1割にも満たなかった。しかし間伐材を燃料に利用すれば林家にとってもメリットという認識が広がり、現在は3割を占めるようになった。

 利益が出る仕組みをつくれば、木材は集まってくる—。ブランドラッケン集落の事業を管理するフランツ・ウンターベルガーさんは「木材の売り先を確保し、持続可能なビジネスとして成り立たせることが大切」と強調した。

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