冬の暖房、給湯に使う木材チップの熱供給システムを説明するドイチュ村長。この小屋の屋根には、太陽熱パネルも設置されている=オーストリア・ギュッシング地域

 10月初め、オーストリア南東部のギュッシング地域にあるシュトレーム村。丘の先には隣国ハンガリーが迫る。「最近までシリアからの難民が連日100人規模で、すぐそこまで押し寄せてきたんだ」。ベルンハード・ドイチュ村長は国境の方を指さした。

 ギュッシング地域は人口2万6500人の田舎町だ。高速道路も鉄道も通らず、1990年代まで「オーストリア最貧の地域」だった。農家や林家の平均所有面積は日本より小さく、農林業は衰退の一途をたどった。人口の7割が首都ウィーンや第2の都市グラーツに出稼ぎに行き、人口流出と過疎に悩まされていた。

 しかし90年代に入り、大きな改革に踏み切った。地域を主導するギュッシング市の議会が「化石燃料から再生可能エネルギーに置き換える」と全会一致で決議した。域外の資源に頼らない「エコエネルギーランド」を掲げた地域は、今や世界から注目される存在へと再生した。

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 オーストリアの田舎町では、暖房は薪ストーブや暖炉、給湯は灯油が主流だった。ギュッシング地域もかつては、石油などの資源を域外から調達していた。そこで地域面積の約45%を占める山林を資源として活用することに着目した。

 ギュッシング市は、集落内に導管を張り巡らせた「地域熱供給事業」に乗り出した。チップ化した木材をボイラーで燃やし、まず17軒に温水を熱エネルギーとして供給した。「政治家やエネルギー関連企業の異論は根強かったが、数年がかりで説明し続け、分かってもらえるようになった」と、事業を推し進めた一員のドイチュ氏は振り返る。

 一方で欧州連合(EU)や国などの公的補助金を受け、木質バイオマスによる発電所を地域内に複数建設した。2001年には木質バイオマスをガス化して発電と熱供給、燃料用ガスに利用する実証研究施設も設けた。牧草のメタンを発酵させ、発電と熱供給をするバイオガス施設もある。

 こうして同地域は、最大時でエネルギー自給率70%を達成した。約50の工場が誘致され、約1100人の雇用を創出した。子ども向けエネルギー教室やエコツーリズムにも力を入れ、世界中から訪れる視察者は地域全体で年間3万人に上るという。

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 ギュッシング市内にある約200人の集落を訪ねると、集落端の小屋の中には木材チップがうずたかく積まれ、屋根には太陽熱パネルがぎっしりと張られていた。冬場は木材チップをボイラーで燃やし、夏場は太陽熱による温水を約70世帯へ送る併用型だ。各家庭では熱交換器を介して給湯や暖房に使っている。

 隣国ドイツから8年前に引っ越してきたエンジニアのパップ・マーテさんによれば、給湯と暖房代は年間1500〓で、日本円で20万円ほど。これは国内最安レベルの料金で「再生可能エネルギーでもあるし、何しろ安い」と話す。こうした木質バイオマスによる地域熱供給は、国内2千カ所以上で行われている。

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 木質バイオマスによる熱供給のビジネスモデル構築を目指す「あわら三国木質バイオマスエネルギー事業協議会」のメンバーが、9月から10月にかけて9日間、オーストリアを視察した。視察団に同行した本紙記者が林業先進国の現状をリポートする。


 木質バイオマスとは

 「バイオマス」は生物資源(バイオ)の量(マス)を表す言葉で、「再生可能な生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」を指す。特に木材からなるバイオマスを「木質バイオマス」と呼ぶ。薪をはじめ、樹木の伐採時に出る枝や葉、製材工場で発生するおがくず、建築材の端材を加工したチップ、ペレットなどがある。

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