練習中、指示を出す西野監督(左)=4日、ゼーフェルト(共同)

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会が14日に開幕。1998年フランス大会に初出場して以来、日本がこの世界最高峰の舞台で戦うのは6度目となる。

 若い年代の人々にとって、W杯出場はいまや4年に一度の「恒例行事」だろう。だからこそ、彼らが日本代表を通して喜びを得るためのは簡単ではない。出ることが当たり前になっている以上、日本よりも強い国を相手に結果を残さなければならないからだ。そこには、高いハードルがある。

 その点、W杯出場の端境期を過ごした年齢の人は、アジア予選を戦う日本代表からも喜びをもらえた。「ドーハの悲劇」という絶望感も味わったが、それがあったからこそジョホールバルで初出場を決めたときの喜びはより大きくなった。この時期を過ごした人は、―極論を言えば―日本代表が本大会で活躍できるかは眼中になかった。W杯に出場することそれ自体が目標だったと言える。

 大会2カ月前の監督交代など、今回の日本代表ほど揺れたチームもなかった。八百長疑惑の出たアギーレ、その後を受けたハリルホジッチ、そして西野朗と4年で3人目の監督だ。もちろん勝負事である以上、今回もふたを開けてみるまで結果は分からないのだが。

 2010年南アフリカ大会の日本代表も、大会前は大きな批判を浴びた。岡田ジャパンはホームで韓国戦に0―2の敗戦を喫するなど、開幕前の準備試合を3連敗。期待感の持てなかったチームは、本大会において良い意味で期待を裏切ってみせて、ベスト16入りを果たした。

 その前例を見れば、今回の西野ジャパンも置かれた状況は似ている。だからといって、南アフリカと同じ結果を残せるかというとかなり難しいだろう。あのチームには計算できるベテランに加え、本田圭佑や長友佑都など、後にビッグクラブに引き抜かれる上り調子の若手がいた。予想外のブレイクをする新戦力。その「伸びしろ」が今回は望めない。

 ハメス・ロドリゲスやファルカオを擁すコロンビア。マネのセネガル。レバンドフスキのポーランド。グループHに同居する3カ国は、スーパーなアタッカーを抱えている。彼らの高い個人能力を踏まえると、日本がいくら守備組織を緻密に組み上げたとしても簡単に勝負を決められてしまう恐れは十分にある。決勝トーナメント進出は、実力通りならかなり難しい。そうなったとき問われるのは、ロシアから何を持ち帰るかだ。

 ロシア大会を日本サッカーにとって価値のあるものにするために、西野ジャパン何をすべきなのか。今後の日本の進むべきサッカーのスタイルを決めてほしい。個人的にはそう願ってやまない。

 日本のサッカーはこれまで4年ごとに戦うスタイルを変えてきた。4年区切りのW杯を託された外国人監督は、基本的に本大会でどうやって勝つかしか考えていない。ジーコは少し違うのかもしれないが、トルシエやザッケローニは、少なくとも「日本サッカー」を中・長期的視野で捉えていたとは思えない。監督が連れてきたスタッフとともに帰国すれば、彼らの植えつけた戦術はほどなく消滅してしまう。さらに、前任者とは違うスタイルを持つ外国人監督が新たに招かれれば、それまでに積み上げたものは一瞬にして吹き飛び、またゼロからの積み上げが必要となる。これでは、一貫性など生まれるはずもない。それはハリルホジッチのサッカーで十分に分かったはずだ。

 コミュニケーション不足を理由に前任者を切って就任した西野監督だが、会見で彼が語る言葉を聞いている限り、何を伝えようとしているのかよく理解ができない。ただ、スタッフが全員日本人ということを考えれば、それはプラスに働く。今回のスタッフは日本人選手の「武器」と「弱点」を誰よりも把握している。特徴を整理して本大会に臨むことで、試合の勝敗だけではない結果をW杯から持ち帰ることも可能になるのだ。

 手本とすべき国がある。1994年米国W杯から6大会連続で決勝トーナメント進出を果たしているメキシコだ。かつての北中米・カリブ地区は、現在のアジアに似ている。メキシコはこの地区では圧倒的に強く、W杯出場の常連だった。そのなかで自国開催した2大会(70年、86年)こそ決勝トーナメント進出を果たしたが、他の大会ではほとんどがグループリーグ敗退だった。それがいまや目を離せない存在になったのは、現在のような技術を基盤としたメキシコのスタイルを前面に押し出してからだ。置かれた立場が日本と似通っていたことを考えれば、見習わない手はないだろう。

 日本人らしさ。それを突き詰めていっても、W杯で勝てる保証はない。なぜなら、ブラジルやドイツといった「サッカー界の巨人たち」は日本よりはるか昔から、自国の「らしさ」を突き詰めてきたからだ。だからこそ、4年ごとに変わる外国人監督が説くサッカーをなぞるよりも、自分たちの信念に基づいたサッカーを日本はやるべきだ。たとえ敗れたとしても、その方が納得がいくというものだ。

 都合の良いことに今回のメンバーは「伸びしろ」はないが、経験値の高い選手が多い。彼らなら日本人選手に合うサッカーが何か。それが分かっているはずだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。

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