【論説】「そのことはよく分かっている」。米朝首脳会談の事前協議で日本人拉致問題を提起したポンペオ米国務長官に、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が発言したとされる。やりとりの前後が不明でニュアンスを理解するのが難しいが、米国が拉致を提起したことが事実として確認され、正恩氏も拒絶はしなかった。日朝協議へ道筋を付けられるかどうか、重大な局面を迎えている。

 北朝鮮は「拉致問題は解決済み」との姿勢を変えていないとされる。しかし、トランプ米大統領は正恩氏側近の金英哲(キムヨンチョル)党副委員長と会談した1日、「(拉致を含む)人権問題は話していない」としつつ、「首脳会談ではおそらく取り上げる」と述べた。トランプ氏は4月にも、安倍晋三首相に拉致問題を取り上げる、と語っている。

 今回明らかになった正恩氏の発言は、真意を政府が分析中で、拉致問題が米朝会談の議題になることを意味するのか即断できない。ただ、拉致解決に向けて日本が描く戦略は、南北、米朝そして日朝会談で問題を提起していく3段構え。その第2段階について実現可能性が浮かんできたとはいえよう。

 米朝会談を前に7日(日本時間8日)行われる日米首脳会談は、北朝鮮に対して結束をアピールするような、儀礼的なものでは済まない。拉致解決の第2段階を確実にするため、重い意味を持つ。北朝鮮が国際社会と関係を築きたいなら拉致解決が大前提、というのが日本の根本的立場。米国としても、民主主義国家のリーダーとして素通りできる問題ではない。

 安倍首相は会談でトランプ氏に対して、北朝鮮の「拉致は解決済み」との主張があっても受け入れないこと、経済協力の前に解決が必要と提示することなどを要請する。「おそらく」ではなく「必ず」取り上げるとの言質をトランプ氏から取っておきたい。

 トランプ氏と英哲氏の会談では米側から、非核化について譲歩があったと見られている。象徴的に受け止められたのが、トランプ氏の「今後、最大限の圧力との言葉を使いたくない」との発言。理由をトランプ氏は「われわれは、うまくやっている(getting along)」のだから、とした。

 北朝鮮への態度を軟化させたようにも映るが、発言の前後でトランプ氏は「(最大限の圧力は)今のまま続く」「最大限の圧力に変更はない。どこかの時点でディール(取引)したい」とも述べている。「どこかの時点」が何を指しているかは要注意だが、現時点で米国の対北朝鮮政策は維持されている。「譲歩」の実際のところは分かっておらず、トランプ氏の言動一つ一つに過剰反応はできない。

 日本として、米朝会談を通じて是が非でも獲得したい成果は、日朝協議への足がかりだ。そのためには、拉致解決をぶれずに訴え続けるしかない。安倍首相が築いてきたトランプ氏との関係が、試されるときだ。

関連記事
あわせて読みたい