【越山若水】奇祭といわれる祭りは全国に数多いが、この3日に青森県の新郷村で行われた「キリスト祭」ほどの奇祭を寡聞にして知らない。何しろ、その伝説が荒唐無稽だ▼ゴルゴタの丘ではりつけになったはずのキリストは、本当はこの村にひそかに逃れ住んで106歳の生涯を終えた、というのである。村には墓もちゃんとある▼当然といおうか村民は、この伝説を信じていないようだ。けれども毎年、祭りを営む。ことしも神職が祝詞を上げ、着物姿の女性15人が村伝統の踊りを披露した―▼見たこともない祭りのニュースを取り上げてみたのは、つい先だって読んだ横光利一の文章と符合したからだ。親交のあった川端康成と北海道へ向かったときの話を書いている▼青森県内を走る車中で、荒唐無稽なキリスト伝説を話題にした翌朝だった。2人は浅虫駅の待合室で弁当を持って座る老人を見かけた。その顔は…何とキリストそっくりだった▼川端は写真に撮ろうとして「気の毒だから」とカメラを下ろし「ふしぎだねえ」と言った。そして横光はこうつづっている。「私もまたキリストの夢を見たのである」▼「梅雨」と題した一文である。わが福井も程なく重苦しい時期を迎える。そうでなくても、文書の改竄(かいざん)や隠蔽(いんぺい)などと政界、教育界で憂鬱(ゆううつ)な話題が続く昨今だ。気を紛らしていただこう、と神秘的な力を借りた次第。

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