【論説】森友、加計学園問題など安倍晋三政権の疑惑や不祥事を巡る与野党の攻防激化を受け、衆参の憲法審査会による改憲論議は停滞している。そんな中、浮上してきたのが国会発議後に賛否を問う国民投票法の改正だ。

 与党は、先行して改正された公職選挙法の規定に合わせた改正案を提示。デパートなどの「共通投票所」の設置や、「洋上投票」の対象拡大といった内容は立憲民主党など野党6党も受け入れる方針を示している。

 問題は、国民投票法が公選法と違って、訴える手段や費用などにほとんど制限を設けていないことだ。「運動は原則自由」という理念に基づくためだが、「さらなる改正が必要」との指摘も少なくない。

 ■テレビCMに資金の差■

 国民投票法では、国会が改憲を発議してから60日以降180日以内に投票が行われる。投票日の14日前からはテレビCMは禁止されるが、最短で1カ月半、最長なら5カ月半にわたり放映され続ける。

 CMへの資金は規制がないため、誰がどれだけお金を使っても基本的に自由という。結果的に、資金力のある一方の主張だけが大量に広まり浸透する恐れは否めない。

 潤沢な資金で有名人を使ったCMを手を変え品を変え放映することも可能となれば、これは「すり込み」どころか「洗脳」と言ってもいい状況だろう。

 さらには投票日前の14日間であっても賛成、反対を呼び掛ける内容でなければ、放送できる可能性もあるという。

 ■何でもありでいいのか■

 資金の問題はメディアだけにとどまらない。ビラやパンフレット、ポスターなどの種類や枚数は無制限。演説会や宣伝カーを使った運動は誰でもできる。公選法では禁じられている戸別訪問なども可能だ。インターネットの活用にも制限はない。節度のない運動の広がりに国民、県民が辟易(へきえき)しないかが心配だ。

 「原則自由」「運動を萎縮させない」という理念は重要だが、お金がある側が多彩な活動を通して有利に運べる、そんな公平性を欠いた状態を放置したままでいいのか。出所が不明確な「裏金」と称される資金が使われる事態も想定される。

 欧州連合からの離脱か否かを国民に問うた英国の国民投票では、代表する団体を認定し、使える資金に上限を設けた。日本でも団体の登録制や収支報告の義務付け、事後チェックといった仕組みを導入すべきだ。

 日本で国民投票は一度も行われたことがない。それだけに、あらゆる事態を想定し備える必要がある。賛成、反対派双方が投票の無効を訴え合うような状況は避けなければならない。

 ■低投票率に国民理解は■

 無効か否かの視点でいえば、投票率の問題も見逃せない。投票率が低くても1票でも多ければ改憲の可否が決まる。仮に投票率40%ならば、5人に1人の割合をわずかに超える投票行動で決することになる。国民理解は果たして得られるだろうか。

 一定の投票率がなければ不成立となる「最低投票率」制を求める声もあるが、投票棄権運動につながるとの指摘もある。この問題に詳しい専門家からは有権者総数の3、4割以上の賛成を必要とする「絶対得票率」制といった提案もある。熟議を求めたい。

 与党の改正案提示には、改憲論議再開への呼び水にしたいとの自民党の思惑が透けるが、究極の「首相案件」である改憲は、相次ぐ疑惑を受け環境は整っているとはいえず、日程的にも厳しいとの見方が専ら。とはいえ国民投票法は重要な手続き法であり、早期に見直し論議を進める必要がある。

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