【論説】働き方改革関連法案が衆院を通過した。長時間労働の規制が緊急課題なのは当然だ。しかし、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」について、衆院では議論が全く深まらなかった。加藤勝信厚生労働相をはじめ政府側の説明が、中身の薄いものに終始したからだ。安倍晋三首相の言う「70年ぶりの大改革」にふさわしい議論が参院でもできないなら、高プロは法案から切り離すしかない。

 加藤厚労相は衆院厚労委の提案理由説明で、「働き方のニーズが多様化している」として、労働者が事情に応じ働き方を選べることが重要と述べた。だが、高プロが▽意欲や能力の発揮▽労働生産性向上―にどう結びつくのか、明確な説明はなかった。高プロは「なぜ必要か」がよく分からないまま、今に至っている。

 ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏は著書「働き方改革」で、高プロが機能する場合はあると認めつつ、今の日本での導入はデメリットが大きい、と断言している。同書によれば、労働時間規制が今から始まろうとしている日本では一般に、限られた時間で成果を上げるスキルを管理職が有していない。高プロを導入しても対象者にしわ寄せが行くだけで、少なくとも働き方改革のスキルが管理職に行き渡ることが、前提として必要という。

 この点は、厚労委の審議で他ならぬ自民議員が「中小企業は時間外労働を減らしながら生産性を上げる方法が分かっていない」と訴えていた。こうした指摘が出ること自体、高プロが時期尚早である証しだ。

 野党は、やみくもに反対しただけではない。「業務形態が完全に自律的な場合に限定を」(立憲民主)「労働者保護の仕組みをもっと高度化すべきだ」(国民民主)「なぜ高プロで働き方が自律的、創造的となり生産性が高まるのか」(共産)などと建設的、本質的な質疑をしていた。しかし政府側の答弁で目立ったのは加藤厚労相の「はぐらかし」ぐらい。ニーズの根拠がわずか十数人からの聞き取りだったことも明らかになった。

 一部野党との修正協議で適用同意撤回を可能にしたこと、対象者の要件を「法改正なしに緩和は不可能」との首相答弁が引き出されたことなど、少ないながら成果もあった。

 だが、高プロは対象者が長時間労働によって死に至った場合でも、過労死と認定されない可能性が指摘されている。「死者が増えるが過労死は減る」と批判されるゆえんだ。導入企業の監督指導強化が不可欠だが、労働基準監督署のマンパワー不足は解消される見込みがない。導入に向けた課題は山積みで、厚労委の質疑を打ち切ってまで採決したのは明らかに間違いだ。

 政府は「はぐらかし」の態度を改め、参院審議に誠実に対応する責任がある。首相も指導力を発揮すべきだ。人の命が懸かるこの法案の扱いを誤れば、致命的な失政となる。
 

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