学生たちが商品化した日本酒

■モノの価値って何で決まる?

 (2)のやり取りは、むしろぜひ学生から質問をしてほしかったものでした。予定通り、来ました!「自分たちで考えて売値を決めてごらん」と突き放すと、相当困っていたようです。でもそこで考えることが大切です。考えるのは原価がいくらということではなく、売値をどうつけるかをです。今回、日本酒づくりのお手伝いの場を学生らに与えてくださった、吉田酒造有限会社の吉田由香里社長も「みなさんが考えたコンセプトのお酒です。自分たちが売りたいと思う値段をつけてください」とおっしゃってくださいました。この回答がとてもありがたかったです。普段の授業では、共通教育科目で効用価値説(商品の価値は人々の満足により決定されるという考え)の大切さを述べ、経営学系科目では、「原価をもとに売価を決める考え方では、日本はいつまでたっても欧米並みの売上高利益率水準に達しないと」と話しています。正直なところ、学生らがいくらを提示するかドキドキしていたのですが、4号瓶(720ml)で2,700円(税込)としました。作ったロットも多くない限定品で、学生らや吉田酒造様の手間や、50%を削った純米大吟醸酒であること、立派な化粧箱に入っているデザインなどを考えると、もう少し高くてもいいなぁと思ったのですが、吉田社長は了解してくださいました。

そのこともあり、売れ行きは好調でした!5月に入り、吉田社長に在庫を問い合わせると、同社内の在庫は、あと僅か。これから求めるなら福井大学文京キャンパス近くの森酒店などの店頭在庫か、かがみやのお中元カタログ用に取り置いた本数分ぐらいとのことです。

■始めてみるとわかる

学生らは決してやりたくない理由を言っているわけではなく、現物がないと販売促進活動ができないと、本気で思い込んでいました。吉田社長が、「(日本酒が)出来てからでは、手遅れ。遅すぎる!」とおっしゃいました。そうですよね。お酒が完成し次第、店頭にすぐ並べなければ、売り時を逃してしまいます。

(3)のやり取りは、良い意味でも悪い意味でも、日本のこれまでの教育の成果なのだろうと思います。アントレプレナーシップ(企業家精神)やスタートアップビジネスについて、国内外で研究したり教えたりしていると、日本人に多いビジネスのスタート時の特殊性に気づきます。まず計画する、きっちり準備をする、そしてスタートをするという具合に用意周到なのが、日本人に多いような気がします。本学の学生も、「起業をしたいです。どうやって会社を作ればいいですか」という質問をよくします。会社なんて作るのは別に義務でも何でもないわけです。形にこだわるより、まずは個人事業で売り始めればいい。儲かりだせば、個人事業で継続するか、法人成りするか、その時に形態を考えればいいわけです。ビジネスをするならオフィスを構えないといけないと思う人も多いですよね。

私が研究フィールドとするタイでは、社会人でも学生でもビジネスを「ふと」はじめてみたり、気軽にフリマでもネット上でも(SNS上でさえ)お店を開いたりします。「ふと」はじめたものは、成功しなければ、「さらっと」やめることができます。

実はものづくりには、このような感覚も必要です。私の経営学の授業では「ピボット」という表現をしているのですが、完成してからでは修正は遅いのです。その時点で時間を巻き戻せないこともあります。だからとにかく潜在顧客との対話をスタートして、顧客の反応を確かめながら、ものづくりの過程に活かすということです。つまりバスケットボールのピボットのように、自在に方向を変えることができる姿勢が、工学系の経営学、ひいてはものづくりに必要です。

 わかりやすい例だと、四号瓶と一升瓶の割合をどの程度にして作ればいいかなどは、事前に販売促進活動をし、顧客の反応を確かめつつ、決定しなければいけません。それぞれに日本酒を詰め終わって、「あ、こっちは売れへんわ~」では遅いですね。

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