【越山若水】良き話をするには良き心が要る―と話術の神様・徳川夢声が書き残している(「話術」新潮文庫)。心が言葉になり、話となって人の心に働きかけるのだから、と▼昔の政治家には雄弁家が多い。大隈重信がそうだったし犬養毅や尾崎行雄も演説上手だった。では、彼らも良き心の持ち主だったのかといえば答えは「疑問」▼話術の神様の見るところ彼らは「自分自身の人格を、まともにさらけ出して」語ったので聴衆を感動させた。個性の魅力が聴く者を縛りつけたのだ、と言っている▼その昔に比べ、政治家の話術は格段に上がっているらしい。それは演説ではなく、もっぱら答弁術のことだ。「ご飯論法」と名付けられ、少し前からネットで話題になっている▼「朝ごはんは食べたか」と聞かれたら「ご飯は食べていない」と答える。本当はパンを食べたが「ご飯」ではないから、後でばれても虚偽答弁にはならない。こんな論法である▼代表的な使い手が加藤勝信厚生労働相だ。衆院厚生労働委員会でも縦横に駆使し、欠陥データだらけだった働き方改革関連法案を可決へと導いた▼ご飯論法は無敵だという指摘がある。質問する側は子どもの屁理屈(へりくつ)を相手にするようなもので、時間ばかり空費して何も得られないからだ。この論法には良き心も政治家の個性の魅力も要らない。そもそも話し合う気がないのだから。

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