【論説】やはり、この国との交渉は一筋縄ではいかないということだろう。

 トランプ米大統領が来月12日にシンガポールで予定されていた米朝首脳会談の取りやめを表明した。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に宛てた書簡で、北朝鮮側の「敵対的な言動」を理由に挙げた。準備のための会合をすっぽかしたり、気にくわない発言をやり玉に挙げ警告を発したりするなど、会談を望んだ側とは思えない対応だ。北のペースに乗らないためには、中止もやむを得まい。

 ただ、書簡には「心を入れ替えたならば、私に連絡を」ともあり、「延期」のニュアンスが強い。北朝鮮も金桂冠(キムゲグァン)第1外務次官が談話で米朝の敵対関係の改善に向け「首脳会談が切実に必要だ」と米側に再考を促すなど、歩み寄る姿勢を示している。朝鮮半島情勢が再び緊迫へと後戻りすることは世界のどの国も望んでいない。米朝会談の再開のためには互いの疑念を払拭(ふっしょく)する努力を求めたい。

 トランプ氏は11月の中間選挙をにらんで、目に見える成果を上げたいとの思いが強い。過去に北朝鮮に何度も約束を反故(ほご)にされてきた経緯もあり、短期間での「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」をのませることに躍起になっている。北朝鮮が、こうした性急な要求を嫌っているのは明らかだ。

 ポンペオ米国務長官は、ここ数日にわたり会談準備のため北朝鮮側に連絡を取ろうとしたが反応はなかったとしている。北朝鮮による豊渓里(ブンゲリ)核実験場の廃棄には、金委員長が4月の南北会談で検証作業ができる専門家や当局者も招くとしていたが、実際に呼んだのは記者だけで、米高官は約束破りだと批判した。これらは北朝鮮の常とう手段とみるべきだろう。

 ただ、ペンス副大統領が、核放棄に応じ数年後に殺害されたリビアのカダフィ大佐の末路に触れた件は、さすがに行き過ぎのように映る。金委員長にとって米朝会談の肝は米国からの「体制保証」にこそある。崔善姫(チェソンヒ)外務次官が「米国がわれわれの善意を冒涜(ぼうとく)し非道に振る舞い続けるなら、首脳会談の再考を最高幹部に提起する」と非難、警告したのもうなずける。

 金委員長は2度の中朝首脳会談で中国の後ろ盾を得て自信を深めているとされる。「段階的な非核化」方針を習近平(しゅうきんぺい)国家主席と共有し、非核化措置の都度、見返りを得ようと駆け引きを強める。

 米国は、まずは北朝鮮から非核化の具体的な確約を取り付ける必要がある。北の煮え切らない態度は想定内であり、会談の「中止」表明は米国ペースの対話に引き戻す意味合いがあるようにも思える。

 気がかりなのは、中国が制裁を緩め始めているとの指摘だ。北朝鮮労働者が中朝の国境を越え、海産物の輸出も再開されたと報じられている。包囲網のほころびは、北朝鮮の思うつぼであり、中国への警告を怠ってはならない。日米韓の結束が再度求められている。

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