後半、自身2点目のゴールを決め、パフォーマンスを披露する川崎・中村(中央)=等々力

 Jリーグでプレーする全選手の意識がこの人のようだったら―。そう思わせる選手がいる。J1川崎の中村憲剛だ。「サッカーとは頭を使うスポーツ」。意図を感じさせる彼のプレーを見ていると、このことに改めて気づく。そう、頭はヘディングをするためだけにあるのではない。うまく働かせてほしい。選手の技術を向上させるには、それなりの時間がかかる。しかし、それに比べれば思考を切り替えるのは簡単なはずだ。

 J1はワールドカップ(W杯)ロシア大会開催に伴って2カ月の中断期間に入る。中断前最後の試合となる5月20日の第15節で、清水と対戦した川崎は3―0と快勝。ホーム等々力陸上競技場での連敗を2で止めた。

 昨年のチャンピオンチームが、地元でこれ以上サポーターを落胆させるわけにはいかない。開始から畳み掛けた川崎は、理想的な時間帯で得点を積み重ねた。開始19分に中村、33分に阿部浩之、そして後半12分に中村がこの日の自身2点目。中でも前半は清水のシュートを1本に抑え、中村をして「ほぼパーフェクト。ハーフコートで(試合を)やれた」という内容だった。

 三つあったどのゴールも価値に変わりはない。とはいうものの、やはり決勝点は重みがある。一方、個人的にあえて注目したのが3点目だ。

 それは、清水のGK六反勇治が、ペナルティーエリア外でボールをキープしていた状況で起きた。MF河井陽介が自陣に戻りながら、六反からのボールを受けようとした。その隙を狙っていた選手がいた。センターサール内で清水MF竹内涼の陰に隠れ、河井の視界から消えていた中村だ。六反が河井にパスを送った瞬間、猛然とダッシュして“ボール狩り”に出たのだ。

 「あのシーンは相手の選手が背中を完全にこっちに向けていたんで、オレの存在はたぶん感知していなかった。トラップが瞬間に離れたんで。自分のことが分かっていたらああいうトラップはしない」

 背後から急襲し、ボールを突いてそのまま独走。最初に狙った左足ループシュートは、慌ててカバーに入った河井に当たったが、これがGKに対しての良いフェイントとなった。こぼれたボールを「逆にコースが空いたんで」と冷静に左足で流し込んだ。

 漠然とサッカーをやっていたら、このようなゴールは生まれない。狙っているからこそチャンスを作れる。そしてアクションを起こす直前までは、獲物を狙う猫のように無関心を装って動かない。相手に悟られないようにするのだ。

 相手の油断を突いたゴール。中村は第9節の鹿島戦でも同様のゴールを見せている。このときは、鹿島DF小田逸稀からGK権純泰(クォン・スンテ)に送られたバックパスを狙った。同じく背後から忍び寄り、パスを出す瞬間に一気にダッシュ。ボールを奪って、GKの股の間を抜くゴールを決めている。

 「いかにずる賢くやり続けるか。考えながらやるか。相手の状態を見ながらね」

 ただ体を動かすだけでなく、相手の考えを予測するという頭脳ゲームも同時に楽しむ。「チャンスは1試合で1回来ればいい方ですけど」といいながらも、訪れる可能性を常に狙っている。攻めに関しても、守りに関しても、Jリーガーのすべてが中村のように「狙い」を持ってサッカーをやれば、選手は気を抜くことができなくなり、常に緊迫感のある試合が展開されるはずなのだが。

 前半の直接FKも含め、プロ16年目で3度目となる1試合2得点。そのゴールと勝利は、試合直前の16日に亡くなった故・西城秀樹さんにささげられた。直接の面識はなかったという。それでも、夏場の恒例イベントだったハーフタイムショーで本拠地を盛り上げてくれた西城さんには感謝の念しかなかった。その哀悼の念を表したのが3点目直後のゴールパフォーマンス。代表曲「YOUNG MAN(Y.M.C.A)」のさびで披露される印象的な「YMCA」ダンスだった。

 加えて、偉大な“勲章”も得た。中村のJ1リーグ戦出場は、これで418試合目。大学出身者としては、磐田や名古屋で活躍した藤田俊哉が持つ最多記録に並んだのだ。

 試合後のスタジアムで心が温かくなった。西城さんの追悼試合だったということもあり、選手やスタッフは喪章をつけていた。しかし、その喪章の範囲はこれだけに止まらず、会場設営やボランティアと思われる人たちまで及んでいた。このような温かみのあるクラブは、そう多くはないのではないか。心が通っている。

 それにしても、中村憲剛は37歳とは思えないほど守備に攻撃によく走る。その意味で川崎のバンディエラは、いまだヤングマンだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。

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