【越山若水】大勢の報道陣から無数のフラッシュを浴びせられる姿は痛ましかった。だが「真実を明らかにすることが謝罪の第一歩」と逃げなかった。近ごろこれほど潔さを感じた記者会見も珍しい▼アメリカンフットボールの日本大の宮川泰介選手だ。関西学院大との定期戦で、あの悪質な反則をしたのは内田正人前監督らの指示だったことを明かした▼宮川選手が読み上げた陳述書の中身は生々しかった。試合に出たいなら関学大の選手を「つぶせ」などと迫られ、前監督にはこう言われた。「やらなきゃ意味ないよ」▼この通りなら、あまりにひどい話である。いやなら拒めばいい、と宮川選手の責任を問うこともできるかもしれない。が、拒否できない状況下にあったことは容易に察せられる▼一人に権力が集中し、周囲の人間はその顔色をうかがって何も言えない―。どこかで見た構図だと思った人も多いだろう。そう、安倍晋三政権に似ている▼宮川選手はさしずめ、霞が関のエリート官僚。ここからは勝手な当て推量ながら、どちらもトップの望むように動き、それが問題になると自らの責任として引き受けた▼けれど、両者には全く違う点がある。真実を明らかにしようとする誠実さである。アスリートである前に、人としての務めを宮川選手は果たしたのだろう。彼はアメフット界を去るという。ひどい世の中である。

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